もう一度出逢える日まで

桃芽3

そうしてこの世界に戻ってきて一年が過ぎた頃、川上一座はついに海外へ進出することになった。

「いよいよですね、座長!」
「ああ。俺達の実力がどれ程のものか試せるんだ。皆、気をひきしめてかかれよ!」
「もちろんです、座長!」

テンション高い一座の様子を嬉しそうに見ていると、「何他人行儀な顔してんだよ」と小突かれる。

「音二郎さん?」
「お前も行くんだよ。そろそろ役者デビューしてもいい頃だろうよ」
「む、無理です! 私、役者なんて……っ」
「何いってんだよ。何回お前に代役頼んだと思ってんだ。想像以上に伸びて驚いたのはこっちだってーの」

確かに団員の都合が合わずに練習の時に代役をすることも何度かあったが、舞台に上がったことなどなく、自分が役者になるなどとても考えられなかった。

「確かに嬢ちゃんはいいもん持ってるよな。さすがは座長が目をつけただけはある」
「そうだね。舞台にたつと不思議と華があるのは、役者には欠かせないもんだ」
「ははは、お前らもよくわかってるじゃねえか。な? 覚悟決めろよ、芽衣」

団員達にも促されるが、ぶんぶんと首を振って無理だと訴える。確かに音二郎さんの役にたちたいとは思っていたけれど、これは分を越えているとしか思えず、やりますなどと安易に応えられるはずもなかった。それにそもそもこの時代はまだ女が舞台にたつことは認められていなくて、女役も男性が女形として演じていた。なのに「座長命令だ。決定な」なんて有無を言わさず海外公演に向けた演目で役を振り当てられて、否応なく役者の道を進まされる。
けれども、自分でない人を演じるというのは存外楽しく、次第に私は演じることに夢中になっていった。そんな私を音二郎さんは嬉しそうに見つめていた。

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