もう一度出逢える日まで

桃芽3

そんなふうにただ日々を過ごすことに必死になっている間に、桃介さんが結婚したことを風の噂で聞いた。さすがにその日は普通にしてはいられなくて、楽屋の片隅で泣いてばかりいた。
そんな私を心配して音二郎さんは浅草に誘ってくれたけれど、牛鍋屋を見ても何を見ても桃介さんとの思い出が浮かんできてどうしても涙が出てきた。

「なあ、そんなにあいつが好きか?」

問いかけに頷くことしか出来ない。そんな私に音二郎さんは苦く顔を歪めると、行くぞと甘味屋に連れていかれる。

「音二郎さん?」
「こういう時は食べるに限るんだよ。心は満たされなくても腹は満たされるだろ。ほら、好きなのいくらでも構わねえから選びな」

そう言って店内の様々な甘味を買っていく音二郎さんに、申し訳なさにまた泣くと「ああ、ここで泣くんじゃねえ! 慰められねえだろうが」と、沢山の甘味を抱えながら手を引いて歩いてくれた。
帰ってからは大量の甘味を促されるままに食べてそのまま眠った。満たされぬ思いに、今はもう何も考えたくなかった。

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