恋の芽生え-3-

将望39

「答えわかったか?」
将臣の問いかけに、参考書片手にうんうんうなっていた望美は、しかめっ面のまま振り向いた。

「え? 何か言った?」
「……お前煮詰まりすぎ。ちょっと休憩しようぜ」
図書館で受験勉強をしていた望美は、将臣に促され、本をまとめて外に出る。
よろよろと外に出ると、日差しの眩しさに目を細めた。

「ほら」
「ありがとー」

将臣から冷えたミネラルウォーターを受け取り、蓋を開けて喉に流し込む。
時計を見ると、図書館にやってきてから2時間が過ぎていた。

「もう全然進まないよ~。将臣くんは?」
「ぼちぼち、な」

2年の冬休み、宿題を片付けるために同じように図書館に連れだって行った際、意外にも秀才ぶりが発覚した将臣は、受験勉強も問題ない様子で、望美はがっくりと肩を落とす。

「将臣くんはいいな~。私なんか全然覚えられないよ」
「そのまんま覚えようとするから、頭入らねーんだよ」

望美に覚えるコツを教えながらも、将臣は別のことを考えていた。
ずっと聞きたいことが将臣にはあるのだが、望美自身に気づいて欲しかったために、問えずにいた。
しかし、2ヶ月過ぎても一向に返らぬ返事に、ついに重い口を開く。

「なぁ……」
「ん? なに?」
「前に俺が言ったこと、覚えてるか?」
「将臣くんに言われたこと?」
突然の問いに首を傾げるが、すぐに思い当たってこくんと頷く。

「“どうして将臣くんを見ると顔が赤くなるか”だよね?」
「……答え出たのか?」
「うん!」

にこりと微笑まれ、将臣が顔を曇らせる。
夏休み近くに望美がらしくない態度を見せ、長年の恋の成就を期待したのだが、ある時を境に元の彼女に戻ってしまい、将臣は困惑した。
――恋していると思ったのは、俺の勘違いか?
問いたくて、でも出来ずに言葉を胸の奥に飲み込む。

「勘違いじゃないよ」
まるで心の内を読んだかのような望美に、将臣は驚いて彼女を見た。

「望美?」
「“答え”でたの。でも将臣くんに言うのは、もう少し待って欲しい」
「どういうことだ?」
「私不器用だから、いくつも同時に出来ないんだ。だから大学合格するまで、待って欲しいんだけど……」
「……」
「だめ?」
黙り込んだ将臣に、望美が不安そうに覗き込む。
そんな望美に、将臣は顔をあげ苦笑をもらす。

「……ったく、お前にはかなわねーな」
「将臣くん?」
「わかったよ。その代わり、ちゃんと聞かせてくれよな?」
「うん!」
気落ちしないといえば嘘になるが、それでもそんな望美を好きになったので文句も言えず――。

(ま、散々肩透かし食らってるんだ。もう少しぐらいは待ってやるよ……)

胸で呟き、図書館へ一緒に戻っていく。
いつか、隣にいるのが幼馴染ではなくなっていることを信じて。

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