聖夜

将望40

カレンダーを見て、望美が一つため息をつく。
今日は12月24日。
終業式を迎え、明日から冬休みというこの日は、世間一般ではクリスマスイブであったが。

「ひどい……」

将臣の両親は昨年に引き続いて海外不在、望美の両親は2人でデートと、受験生を抱える両家は、今年のクリスマスをお預けにしてくれたのである。
おかげで、今年こそは今までのように両家でクリスマスパーティを開けると思っていた望美は、がっくりと肩を落としたのだった。

「受験生だってクリスマスぐらいいいじゃない……」

唇を尖らせ、隣家を見ると、同じく受験生である将臣の部屋にも灯り。
時空で別れ、3年半の時がずれてしまっていた将臣も、鎌倉の五行が戻り、力を取り戻した白龍によって、望美と同い年に戻っていた。
持ち前の勘でいつも試験を乗り切っていた将臣も、さすがに大学受験間近のこの冬休みは遊んでいるわけにもいかないようで、望美と同じくその部屋は毎晩遅くまで明かりが灯されていた。

「イルミネーションぐらい、見に行きたかったな…」

昨年までなら、隣りの将臣と譲を誘っていたが、さすがに今年はそうもいかずに、泣く泣く我慢したのである。
でも――。

「今年こそはみんなでクリスマスパーティやりたかったなぁ……」

思いがけず、異世界へと飛ばされたのが、昨年の12月上旬。
それから1年以上の時を、望美は遥か向こうの京で過ごしたのである。
ようやく帰って来た時は、仲間と一緒で、それは賑やかでとても楽しかったのだが、やはり失われた時にどうしても未練があった。

「はぁ……」
再びため息をついた時、コンコンッと窓をノックする音が耳に届く。
2階にある望美の部屋をノック出来る人物はただ一人。
望美は慌てて立ち上がると、カーテンを開いて窓から顔を覗かせた。

「よっ!」
「どうしたの?」
「やっぱふてくされてたか」
頬をつんつんとつつかれ、望美が眉を下げる。

「だって……せっかくのクリスマスなんだよ? なのに……」
「こっちこいよ」
「え?」
突然の誘いに、望美が瞳を丸くする。

「どうせおばさん達も出かけてるんだろ? 譲が灰色の受験生にクリスマスパーティ開いてくれるってよ」

「本当っ!?」

「ああ。急いで来いよ? 料理が冷めちまうからな」

「うん!」

元気よく頷くと、望美は部屋へと取って返した。

* *

「お邪魔します!」
「いらっしゃい、先輩」
「なんだ、わざわざ着替えてきたのか?」
料理を運んでいる譲に、望美が嬉しそうに駆け寄る。

「譲くん、ありがとうね!」
「いえ、本当にささやかなものですから」
「ううん、ケーキにチキンに、サラダにシャンパン。パーティには十分だよ!」

キッチンに置いてあった皿を運びながら、満面の笑みを浮かべる望美に、譲が目元を赤く染めて眼鏡を直す。

「乾杯~!」
かちん、とグラスを合わせ、シャンパンを飲むと、望美は嬉しそうに2人を見た。

「今年はクリスマスパーティなしだと思ってから、すごく嬉しい!」

「お前がやさぐれてるんじゃねーかって、譲が心配しててな」

「だって先輩、毎年楽しみにしていたでしょ? 両家のクリスマスパーティ」

3人が高校生になってからも行われていたクリスマスパーティは、異世界に飛ばされたあの前の年までは、両家の恒例行事だった。

「本当に久しぶりだよね……」
遠い目をした望美に、将臣と譲が無言で彼女を見つめる。
望美の言葉に込められた意味を、二人はよく理解していた。

「しかし、年頃の男女が仲良くホームパーティなんて、寂しいよな~」
「え? そうかな? 私は嬉しいよ?」

異世界に行っても変わらない望美に、将臣と譲が苦笑する。

「……まっ、今年はこれでいっか」
「将臣くん?」

きょとんと覗き込む望美に、くしゃくしゃと髪を撫でて笑う。
異世界に行って気づいた、望美への隠せない恋情。
それは、この世界にいた頃はずっと胸に秘めていたものだった。
しかし、仲間に囲まれ、慕われる望美を見ている内に、このまま想いを秘めていることは無理なのだと気がついた。

それから訪れた、望美の変化。
驚きつつも慎重に窺っていると、突然元に戻ってしまい、慌てさせられ。
半分諦めた時に、思いがけない望美の返事と、相変わらず将臣が振り回されていた。

「無自覚って言うのが罪だよな……」

これほどまでに惹きつけておきながら、受験に合格するまで返事を待てと言うのだ。
将臣にとっては生殺しだった。
知らずため息をこぼすと、小さな囁きが耳に入る。

「……ごめんね」
「望美?」
「わがままでごめん」

小声で告げられた謝罪に、頬に触れた柔らかなぬくもり。
驚き振り返った時には、氷をとりに行った譲の元へ駆けて行く望美の後ろ姿が目に入った。
ふわりと舞い上がった紫苑の髪から覗いた耳は真っ赤。

「……不意打ちだよな」
口元を押さえて俯いた将臣の目尻は、赤く染まっていて。
思いがけない進展を見せた、将臣と望美のクリスマス。
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