恋の芽生え-2-

将望39

『お前がどうして俺を見ると顔が赤くなるのか、分かったら教えてやるよ』

そう将臣に言われてから、望美はずっと考えていた。
確かに以前ならば、ラブレターを渡すことを頼まれても胸が痛むようなことはなかったし、将臣が女子に囲まれているのを見ても、幼馴染の人気ぶりに素直に喜んでいた。
それなのに、最近ではラブレターを頼まれることが憂鬱になり、将臣が女子と話している姿を見ると不快感を感じるようになってしまった。
そんな自分の変化に、望美自身戸惑っていた。
だが……。

「わかんな~い」
もんもんと頭を悩ませていた望美が、ぼふんと布団に突っ伏す。
そんな望美に、泊まりにきていた友人が不思議そうに問う。

「望美ってば、何をさっきから考え込んでるの?」

「ねえ……ある特定の男の子に会うと顔が赤くなっちゃうのって、どうしてなのかな~?」

「それってその男の子のことが好きだからでしょ?」

「えぇっ!?」

友人の指摘に、望美が驚き飛び起きる。

「だって、その男の子のことを意識しているから、照れるってことでしょ? つまり“恋”ね」

「こ、恋!?」

思いがけない単語に、望美が動揺する。

(私が将臣くんに恋、してる……?)
今まで、望美は恋をしたことがなかった。
それは誰かを想うよりも、将臣や譲と過ごす時間の方がずっと楽しかったからだった。

「私が……恋……」

口にして、ぼんと顔が赤らむ。
自覚すると同時に、夜通しゲームをして1つの毛布にくるまって眠ったことや、手をつないでいたことなどを思い出して、今更ながら恥ずかしくなったのである。

「私が将臣くんに恋してるなんて、ありえな……っ」

慌てて否定しようとした時、異世界の出来事が思い起こされる。

この世界でおよそ半年前の、高校2年生の冬休みを間近に控えたある日、望美は白龍によって神子として突然異世界へ召還された。
その時傍にいたために、巻き込まれる形で将臣と譲も、共に連れて行かれたのである。
戦乱の世である異世界で、望美は何度も将臣に助けられ、守られていた。
そしてこちらの世界にやってきた異界の神・荼吉尼天に身体を取られそうになった時も、気落ちする望美を励まし、守ってくれたのは将臣だった。

だからこそ、望美はこうしてまた普通の生活を送れているのである。
そして、そうして守られていたのは戦いの最中だけでなかったことに気がつく。
幼い頃、同級生の男の子と喧嘩になった時も、
殴られそうになった望美を庇ってくれたり、母との諍いで衝動的に家出をした時も、心配して一緒について来てくれたりしていたのだ。

「私、いつも将臣くんに守られてきたんだ……」

呟き、窓の外を見る。
向かい合った窓の向こうの部屋には明かりが灯っており、将臣がまだ起きていることを示していた。
それを窓越しに見つめていると、とくんと胸が高鳴る。
ドキドキと早鐘を打つことが分からなくて、戸惑いばかりを感じていたけど、今は何だかくすぐったかった。

「そうだよね」

呟き、微笑む。
いつも陰ながら望美を守り支えてくれていた将臣。
こんなにも自分を慈しんでくれていた将臣を、どうして好きにならずにいられたのだろう?

(私が好きって言ったら、将臣くんどうするだろ? 驚くかな?)

想像してふふっと笑みを漏らす。
一人己の胸の内に考えを寄せていた望美は、友人が寝息をたて始めたことに気づき、電気を消してそっと布団にもぐりこむ。
自覚したばかりの恋はくすぐったくて、この想いをどう伝えていいのかわからないけど。
それでも……いつかちゃんと伝えたい。
くすぐったくてとても幸福な、この気持ちを――。

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