今も昔も遠い未来も

将望18

「終わったな」
「うん!」
笑みを浮かべた将臣の腕の中で、望美も嬉しそうに笑う。 そんな二人の元に、八葉や朔が駆け寄る。

「望美、大丈夫?」
「うん。ありがとう、朔」
荼吉尼天に喰われそうになったことを気遣う朔に、望美は立ち上がってにっこり笑う。

「それにしても、よく剣を捨てられたね」
口笛を吹くヒノエに、将臣はふっと表情を和らげた。

「今度はもう……離さないって決めてたからな」
「将臣くん……」
「さてと、そんじゃ移住の準備始めるぞ」
「将臣?」
「ここにいるわけにはいかないだろ?」
視線を投げると、九郎は眉を寄せて俯いた。

「ああ……兄上が平家を許されることはないだろう」

「せっかく生き延びたんだ。おめおめ討たれるつもりはないからな。――前々から決めてたんだ。京じゃない、違う土地で新たに生きるってな」

驚く九郎に、将臣がぽんぽんと肩を叩く。

「気にすんな。源氏と平家が争った時点で、共存なんてありえないんだ。平家は負けたんだ」
「――すまん」
「将臣くんっ!」

駆け寄った望美は、将臣が口を開く前に言葉を発する。

「私も一緒に行くよ」
「のぞ……」
「ダメだって言っても絶対ついてくから!」
「の……」
「もう離れ離れは嫌だよっ!!」
涙交じりで叫んだ瞬間、将臣の胸にかき抱かれた。

「まったく……少しは話聞けよな」
「私は……っ!」
なおも言い募ろうとする望美の口を手で塞いで、ふっと微笑む。

「置いてくなんて言ってないだろ?
……一緒に行こうぜ」
「将臣くん!」
「言っただろ。もう離さない……ってな」
繋がれた手に、望美は将臣に抱きつく。

「うん……ずっと一緒にいよう……っ」
「ああ」
触れ合うぬくもりに互いの存在を感じながら、将臣は頷いた。

* *

共に戦った仲間たちへ決意を告げた望美は、その足で平家の元へ向かった。
源氏の神子の登場にざわめく中で、望美は一度目を瞑ると、ゆっくりと彼らに向き直った。

「私は私の大切な人……将臣くんと一緒に生きたい。将臣くんの大切なあなたたちと共に生きたい。だから、どうかあなたたちの新たな旅立ちに、私も加えてください。お願いします」

「俺からも頼む。望美は確かに源氏の神子と呼ばれていた。だが俺にとってこいつは幼馴染で……大事な奴なんだ」

頭を下げる望美と、乞う将臣に平家が困惑する。
そんな中、澄み通った声が響き渡った。

「――共に参りましょう」
「尼御前!?」
ざわめく平家の中で、二位ノ尼は将臣と望美をまっすぐに見つめた。

「清盛殿亡き今、平家の総領はこの将臣殿です。総領の言葉に従うは、一族として当然でしょう。それに……」
一度目を瞑ると、先程までの戦場だった浜へ視線を向ける。

「源氏の神子……望美殿は、源氏のみならず敵である私達をも守るためにあのおぞましき荼吉尼天に立ち向かわれた。私達の命の恩人なのですよ」
「尼御前……」
二位ノ尼の言葉に、皆が押し黙る。

「そうだ! 神子殿は私を守ってくれたのだぞ!」
「帝……!」
主君である帝と、総領の妻であった二位ノ尼の言葉に、異を唱える者はない。
次第に頷く者が増える様に、二位ノ尼はにこりと微笑んだ。

「歓迎いたしますよ。望美殿」
「ありがとう……ありがとうございます」
優しく微笑む二位ノ尼に、望美の瞳から涙が零れ落ちた。

→第2話へ続く
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