あなたが一番

将望19

「やぁ、姫君。涼しげな格好をしているね」
「ヒノエくん!?」
洗濯をしていた望美は、思いがけぬ声に驚き振り返った。
そこにいたのは、かつて共に戦った熊野水軍の頭領であるヒノエ。

「やっぱり姫君には鎧なんかよりも、そうした可愛らしい服の方が似合うね」
手を取り甲に口づけるヒノエに、望美が嬉しそうに微笑む。

「ヒノエくん! いつ来たの?」
「ついさっきだよ。言っただろ? 姫君を攫いに来るってね」
「おいおい、望美を連れ出すなよ」
冗談か本気かわからぬ言葉に、苦笑交じりの声が遮る。

「将臣くん!」
「お邪魔虫登場か」
「久しぶりに会ってそれか? 相変わらずだな」

辛辣な言葉のわりには口の端をあげるヒノエに、将臣が右手を差し出す。

「見慣れぬ船が来たって言うから来てみたが、やっぱりお前だったな」

「そりゃ姫君のいるところなら、どこへでも馳せ参じなきゃ、ね」

にやりと笑いながら、将臣と握手を交わす。

「元気そうじゃん? まぁ、お前と姫君ならどこへ行っても元気でいると思ったけどね」

「ふふふ、ヒノエくんも相変わらずそうだね。会えて嬉しいよ。特製ジュース作るから家に来て?」

「姫君のお誘いならば」

ヒノエの相変わらずのアタックに、将臣がやれやれとため息を漏らしながら二人と共に家路に着く。

「へぇ~、結構ちゃんとした家じゃん。てっきりかなりサバイバルな生活してるのかと思ったよ」

「この島に住んでいた人達に資材とか少し分けてもらったんだ。手作りだけど、そんなに悪くないでしょ?」

常に源氏に追われていた平家は、自分で住処を
作らねばならなかったため、こうした作業もお手の物だった。
こじんまりとはしているものの、生活する分には何の問題もない。

「姫君、ちょっとおいで」
「なに~?」
飲み物を用意したり、先ほどの洗濯物を干したりと忙しく動く望美を呼び止める。

「姫君への贈り物だよ」

「わぁ~! すごい綺麗な洋服! なんか京の着物とはデザインが違うね?」

「ああ、異国の品だろう。韓国とか辺りのかな?」

「大当たり。熊野の秘密の品物だよ。着てみてごらんよ?」

「うん! ちょっと待っててね」

嬉しそうに貰った洋服を持って別室へと駆けて行く。

「さすがは熊野水軍だな」
「まあ、ね。姫君の喜ぶ顔を見れるなら本望さ」

将臣達が去った後の京の様子や、仲間達の近況を聞いているところに、望美が嬉しそうに戻って来る。

「ね? 見てみて!」
「やっぱり姫君は何を着ても似合うね」
「おい……ちょっと横、開きすぎじゃないか?」

ヒノエが望美にプレゼントしたものは、将臣達の世界ではチャイナ服と呼ばれる、腰下から大きくスリットが入ったワンピース。
下着が見えるか見えないかぐらいの大胆なスリットに、将臣が眉をひそめる。

「姫君はスタイル抜群なんだからいいだろ?
美しいものは見せなきゃね」
言いながらさりげなく自分の横へと望美を座らせるヒノエに、将臣がますます眉をひそめる。

「私、一回着てみたかったんだ~!
中華街に行った時、将臣くんも譲くんも2人で反対して着せてくれないんだもん」
有川兄弟が必死になって阻止している光景が頭に浮かび、ヒノエはへぇ~と口元に笑みを浮かべた。

「それは俺が贈ったものだから、好きなだけ着るといいよ」
「うん! ありがとう、ヒノエくん!」
嬉しそうな望美に、さらにネックレスとイヤリングを飾ってやる。

「姫君は本当によく映えるね。宝石さえもお前の魅力の前には色あせてしまう」
「ヒノエくんったら……」
顔を赤らめながらも、望美は久しぶりの華やかなオシャレに心躍らせる。

「出来ればこのままデートと行きたいところだけど」

「ごめん。今日は帝くんと出かける約束があるの!」

「帝、くん?」

「安徳帝のことだよ。こいつだけだぜ、そんな呼び方許されてんの」

「へぇ、童子をも惑わすなんて、姫君も隅に置けないね」

「何言ってるの。帝くんは弟みたいなもんだよ?」

冷やかすヒノエに、望美が呆れた顔をする。

「ヒノエくんはいつまでいられるの?」

「残念だけど、今日のうちに戻らなきゃいけないんだ。船でむさいやつらも待ってるしね」

「そうなんだ。残念だな。もっとヒノエくんとお話したかったのに……」

「それなら俺と一緒に熊野に来る?姫君ならいつでも大歓迎だよ?」

「ううん。私は将臣くんとこの島にいるって決めたから」

甘い誘いをあっさり退けられて、ヒノエが眉を寄せる。

「そんなに可愛い笑顔でつれないね」
ぼやくヒノエに、望美がにっこり微笑んで将臣の手をとった。

* *

「また遊びにきてね~! 今度はゆっくり来てね~!!」
ヒノエの船を見送る望美に、将臣が呟く。

「一緒に行かなくて良かったのか?」
「え?」
「ヒノエなら華やかな衣装も、豪華な暮らしも用意してくれるぜ?」
「何言ってるの? 将臣くん」
呆れた顔で向き直ると、将臣の頬を両手で包む。

「私は将臣くんの傍にいたくて、この世界に残ったんだよ? 贅沢な暮らしも綺麗な衣装も要らない。将臣くんが傍にいてくれれば幸せなんだよ」

微笑む望美を抱き寄せる。

「ああ……そうだったな。俺もお前を誰かにやるつもりなんてない」
口づける将臣に、望美もにっこり微笑む。

「でも……これはかなりエロいよな?」
言いながら、望美の太ももを撫でる。

「ちょ……っ将臣くん!」
「こんなに肌さらして挑発するお前が悪い」
「そんなの……っ」
抗議しようとする口をふさぎ、将臣は望美を押し倒した。
Index Menu ←Back Next→