一瞬のキス

将望17

「ねえ、そういえば私、将臣くんに好きだって言われたことあったっけ?」
何かずっと考えているとは思ったが、予想外の問いかけに面食らいつつないな、と答える。

「お前もないだろ?」
「そうだっけ?」
「ああ」
同意にしばらく記憶を遡ってるらしい様子に傍らに置かれた酒を手酌で盃に満たすと、口をつけつつ望美を見る。

望美と一緒に南の島に来ることを決めた時も、こうして共に暮らす時にも、自然と一緒にいることが当たり前で互いの想いを口にしたことはなかった。
けれども男と女では考えが違うようで、先日二位ノ尼に婚儀の日取りを聞かれ、全く考えていないと伝えると懇懇と諭されてしまったのである。

(結婚か……)

つい先頃までは平家を生かすことに必死で、そんなことに目を向ける余裕などなかった。
けれども望美のことを忘れたことはなく、この世界に来る前に抱いていた淡い想いは過酷な運命の中で確かなものとなり、今こうして共にある未来を掴んでいた。

「なあ、望美……」
「将臣くん」
同時の呼びかけに目を丸くすると、先にいいぜと望美を促す。

「あのね、私は将臣くんが好きだよ。ずっと一緒にいたいと思ってる」

「なんだよ、急に……」

「今日、言仁くんに聞かれたの。私は将臣くんの奥方じゃないのかって」

大人たちの噂話でも聞いたのだろうと当たりをつけつつ、望美を見つめると手を取られ。

「だから、ずっと一緒にいよう」
「……くっくっ、お前、それ逆だろ?」
「え?」
苦笑を浮かべると、なぜ笑われているのかわからないと目を瞬かせる望美に、その手を握り返して抱き寄せる。

「これからも一緒にいよう。――好きだぜ」
「…………」
「聞いてるか?」
「う、うん」

思いがけず逆プロポーズを受けたが、伝えるべき言葉は将臣にもあると告げるも、反応の鈍い望美を訝しむとその顔は真っ赤で。

「望美?」
「その……言葉にされると好きなんだって急に実感しちゃって……」

照れてるらしい望美に、これはやっぱりちゃんと言葉にするべきだったと、今更ながらに二位ノ尼の話を思い返して反省する。
伝わっているのと伝えるのではこれほど違いがあるのだから。

「で? どうなんだ」
「どうって?」
「だから、俺と結婚するのはOKでいいのか?」
「う、うん。いいんだけど……」
「けど?」
「……もう少しロマンティックにがいい」

望美の願いに目を丸くするが、そういえば小さい頃から指輪に憧れる一面があったと思い出すと思案して。
握っていた手を持ち上げると、その甲に唇を落とす。

「将臣くん……っ!?」
「指輪はねえからな。お前、小さい頃王子様に憧れてたろ?」
「……不意打ちはずるいよ」
「どっちがだよ」

まさか望美から逆プロポーズを受けるとは思ってなかったのだから、これはあいこだろと笑うと顔を傾けて。

「これからもよろしくな。――俺の奥方様」

ちゅっと一瞬のキスを交わすと、望美の顔がさらに赤く染まった。
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