今も昔も遠い未来も-2-

将望18

「気持ちいい~!」
海原を行く船の上で、望美が風に髪を躍らせながら微笑む。

「九郎さんやヒノエくんにも会えて良かったね」
「ああ。ヒノエは相変わらずだったけどな」

鎌倉に平家が落ち延びることの許しを得に行っていた九郎を、早舟で迎えに行ったヒノエ。

「ヒノエくんが遊びに来てくれたら、きっとすごく賑やかだろうね」
「おいおい、連れ去られる気か?」
「ヒノエくんはそんなことしないよ」

くすくすと笑う望美に、将臣は肩をすくめる。
望美を守っていた八葉たちが、少なからず彼女を想っていた事を、将臣は知っていた。

「知らないのは当の本人ぐらいだな……」
「なに~?」
ため息をつけば、案の定恋に疎い望美は首を傾げる。

「なんでもねーよ」
「南の島ってどんなところだろうね?」
海を見つめながらの望美の問いに、将臣も目を向けるとふっと微笑んだ。

「俺らの世界の沖縄周辺ってとこか……なんにせよ、戦はない。それで十分だろ」
「そうだね」

将臣はずっと、戦のない平穏の地を平家に与えようと戦っていた。
それが叶う今、場所など関係なかった。

「リズ先生が言ってたこと、気をつけなきゃね」

別れの時、生活の知恵を与えた恩師に、思い出した将臣がぷっと吹き出す。

「親父みたいだよな」

「弁慶さんもいっぱい薬くれたんだよ? わかんないのも1つあるけど」

「なんだよ?」

「『将臣くんとの生活で困ったら使ってみてください』だって。何の薬なんだろうね?」

望美の言葉に、将臣が頭を抱える。

「ヒノエといい……本当に『朱雀』は喰えない野郎だよな」

「将臣くん?」

「その薬、くれぐれも他のと混ざらないようにしとけよ? 着いて早々、全員発情なんて恐ろしいからな」

意味の分からない望美に、将臣はため息をつきながら注意を促した。

* *

程なくして着いた土地は、京とは全く違っていた。
木造の家ではない、石造りの小屋のような建物。

「なんか教科書に出てきた、昔の沖縄っぽいよね?」
「まあ島の大きさからしても、琉球王国ど真ん中ではなさそうだけどな」

不安げな平家の中、将臣は島民の長に話をつけに一人歩いていく。
そんな将臣に走り寄ると、望美はその手を取った。

「望美?」

「『もう離さない』とか言って、すぐに置いてっちゃうんだから! 一人で何でもしようとするのは、将臣くんの悪い癖だよっ」

頬を膨らませる幼馴染に、将臣が苦笑する。

「わりぃ。だが油断するなよ? ここは未知の土地で、俺らは『侵入者』なんだからな」
「うん」
話している間に、2人の目の前に10数人の島民と、その中心に長と思われる老人が現れた。

「言葉通じるといいけどな」
将臣は姿勢を正すと、警戒心を与えないように気をつけながら、彼らに歩み寄った。

* *

「受け入れてくれて良かったね」
荷物を降ろして微笑んだ望美に、将臣も笑みを返す。

「ああ。どうやら京との交流はねぇみたいで、平家も源氏も知らないようだからな」

将臣達が住む場所を失った漂流の民であること、害を及ぼすつもりは毛頭ないことを告げ、ここへ住むことの許可を長に願い出ると、あっさりとそれは受け入れられた。

「服や家なんかの京との違いに、平家の連中は
戸惑ってるみたいだが、まぁそのうちに慣れるだろ。とりあえず諍いが起きなくて良かったぜ」

侵略者と疑われ、戦いになる可能性も視野に入れてはいたが、出来れば先住民との諍いは避けたいと思っていたのである。

「とりあえずの家まで貸してくれるなんて、本当にいい人たちだよね!」
石造りの粗末なものではあったが、当面の住まいとしては申し分なかった。

「明日からは家の修繕と島民との交流だな」
「頑張ろうね!」
快活に笑う将臣に、望美も明るい笑顔を見せた。

→第3話へ続く
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