今も昔も遠い未来も-3-

将望18

南の島へと辿り着いた将臣たちは、まずは情報収集も兼ねて島民と触れ合った。
見慣れぬ衣を纏う将臣達に、島民は始め戸惑う様子を見せたが、将臣や望美の飾り気のない態度に次第に打ち解けていった。

「やっぱり軽くて気持ちいい~!」

女房に手伝ってもらい、『ワンピース』もどきを作った望美は、くるんと翻して微笑んだ。
京とは違うがこの島もやはり着物のような服で、こんな暑い島で着込むのはごめんと、しつらえたのである。

「洋服ってこんなに軽かったんだな。すっかり忘れてたぜ」

同じく元の世界のTシャツのような服を纏った将臣が笑う。
以前は戦中でもあり、鎧や羽織は手放せなかったが、平穏を得た今ではそれらは不要のものだった。

「でも、平家の皆は抵抗あるみたいだね」

「そりゃ、こっちの世界の人間は露出なんてもっての外だからな。元は貴族でもあるし、厚着すんのが当たり前なんだよ。
でもまぁ、こう暑けりゃそのうち順応するだろ」

将臣と望美の服装に目を剥いていた姿を思い出し、二人でくすくすと笑いあう。
続く戦いの日々の果てに訪れた平穏の時。
将臣を救い、息子と受け入れてくれた清盛は、再び京で返り咲くことを願っていたが、将臣は平家が平穏で生き延びることが出来ればそれで良かったのである。

* *

「将臣殿」
南の島へやってきて1ヶ月あまり。
安徳帝の元を訪れた将臣と望美に、帝はにこにこと二人に問うた。

「将臣殿と望美殿はいつ祝言を挙げるんだ?」
「「……は?」」
突然の問いに、呆けた二人の声が重なる。
そんな二人を不思議そうに見つめながら、帝は言葉を続ける。

「二人は想い合っているんだろ? 『恋人』は祝言を挙げるものじゃないのか?」

「あ~……誰がそんなこと言ってたんだ?」

「女房たちだ」

話を振られた女房が、わたわたと慌てだす。

「帝……そのようなこと、軽々しく問うてはいけません」
「なぜだ? 祝い事であろう?」
無垢な少年は、たしなめる祖母に眉をしかめる。

「今はまだそんなことやってる余裕ないからな」
「そうなのか? 残念だな」
将臣の言葉に、帝が不服そうにため息をつく。
そんな中、望美は頬が赤らむ自分に動揺していた。

(祝言って……結婚式!? いや、確かに将臣くんのことは好きだけど……っ)

将臣と離れたくなくて、一緒に南の島へとやってきた望美だったが、ここに来てから今まで、互いに想いを確認したことはなかったのである。

「望美?」
声をかけられ、己の思考の淵から舞い戻った望美は、慌てて将臣を振り返った。

「な、なに?」
「どうした?」
「ど、どうもしないよ。あはははは!」
意味なく笑う望美に、将臣が怪訝そうに見つめる。
そんな二人を、二位ノ尼は温かい眼差しで見守っていた。

→第4話へ続く
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