今も昔も遠い未来も-4-

将望18

安徳帝の前を辞してからも、望美の頭の中は先程の帝の言葉がぐるぐると回っていた。

「みんな、私と将臣くんのこと恋人だと思ってるのかな?」

呟き、『祝言』という言葉を思い出して再び顔を赤らめる。
この世界へやってきたばかりの頃はまだ、望美にとって将臣は幼馴染でしかなかった。
そんな時、仲間に囲まれた望美に将臣が嫉妬を表したことで、初めて望美は将臣の自分への想いを知った。
それからずっと、望美は自分が将臣のことをどう思っているのか問うてきた。
そんな望美が自分の想いに気づいたのは、将臣が平家の総大将・還内府であると知った後だった。

お互いの中では慣れ親しんだ幼馴染のままなのに、否応なく戦は二人を敵味方に引き裂いた。
戦を失くしたいという願いは同じであるのに、相容れない源氏と平家という壁。
その抗えない源平の戦の波に、望美と将臣は飲み込まれていた。
自分は源氏の仲間を捨てられず、将臣もまた平家を捨てられない。
好きなのに共にいれない。
戦わなくてはいけない。
そんな苦しみの中、一人陣を離れ海を眺めていた望美は将臣に会った。

もしも将臣が平家より自分を選んでくれたら……そんな儚い願いは、しかし将臣の選び取った答えに掻き消えた。
胸が引き裂かれる痛み。
でも将臣の想いは痛いほどわかっていたから。
だからこそ、違う道を進むことを決意した。
十六夜の月の下での一夜限りの縁を胸の奥にしまって。

(……あの時はこんなふうに一緒にいられる日が来るなんて思わなかったんだよね)

愛する人に抱かれているのに、あの時の望美は悲しみが溢れていた。
――その先の二人の未来が見えなかったから。

「でも今は違う」
呟き、辺りを見渡す。
石造りの壁に、簡素な厨。
ここは将臣と望美、二人で暮らす家だった。

「そういえば、あれから将臣くんに好きって言われたことない気がする」
将臣と離れたくなくて、押しかけるような形でついてきた望美。

「将臣くんはどう思ってるのかな?」
荼吉尼天に喰われそうになった時、将臣は剣を捨て決して望美の手を離さなかった。

大好きだから一緒にいたいと望美は思う。
それは将臣も同じなのだろうか?
安徳帝の前で曖昧に濁した将臣の姿が脳裏によぎる。

「将臣くんにとっての私ってなんなんだろう?」

今更ながらの疑問がぐるぐると胸に渦巻く。
これを将臣が聞けば「お前なぁ……」と盛大にため息をつくであろうことを、望美は一人悶々と悩んでいた。

→第5話へ続く
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