「望美~」
「な、なに?」
湯浴みで濡れた髪を拭いながら声をかけると、びくんと肩を震わせぎこちなく振り返った望美に、将臣は怪訝そうに眉を寄せた。
「なんかあったのか?」
「な、なんにもないよ」
「じゃあ、お前がどもってるのはなんでだ?」
ずばっと指摘されて望美が口ごもる。
将臣が自分のことをどう思っているのか考え出したら、どうにも気になり落ち着かなくなったのである。
「一緒にいること……将臣くんはどう思ってる?」
「はぁ?」
意を決した望美の問いに、しかし将臣は目を丸くする。
もともと言動が突発的である望美に免疫があるとはいえ、突然のこの問いはさすがの将臣も意味を解せなかった。
「どう思うってどういうことだよ?」
「だから! 私と一緒にいること、どう思ってるのって聞いてるのっ」
「どう思うってお前……」
真剣な眼差しで問う望美に、将臣はがりがりと頭をかく。
共にいたいと、元の世界へ返らずに将臣と共にやってきた望美。
それは将臣の想いを受け入れたからだと、そう思っていたのだが。
「……お前まさか『同居』とか思ってないよな?」
「そ、それは……っ」
顔を真っ赤に染める望美に、将臣が盛大にため息をつく。
そんな将臣に、望美がムッと問い返す。
「そういう将臣くんはどうなのよ? 私と一緒にいるのは――」
「好きだからに決まってるだろ」
躊躇いなく返された言葉に、望美が瞳を見開く。
「お前なぁ……まさか『お隣の将臣くんとキャンプ』なんてつもりじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょ!」
呆れたふうな将臣に、望美は首を振る。
「ただちょっと……将臣くんがどう思ってるのか不安になったんだもん」
脳裏に甦る、昼間の光景。
「ここに来ることが決まってから今まで、一度も将臣くんの気持ち……聞いたことなかったから」
もう離さない――そう言った将臣。
その言葉が『一緒にいたい』という意味なのだと、あの時望美は思っていた。
だけど、こうして異世界へ来る前のように毎日共にいると、あの頃の自分達と何も変わっていないのではないかという錯覚に捕らわれて。
それは少しずつ望美の胸に降り積もって不安を生んだ。
「俺にとってお前は大事な奴だって言ったろ?」
「それじゃわからないよ」
「そういうお前はどうなんだよ。『大切な人』って幼馴染としてか?」
「違うっ! 私は……っ」
――将臣くんが好きだから!
そう出かかった言葉を飲み込む。
「ずるいよ!私が将臣くんに聞いてるんだよっ!」
言い合いの様相になってきて、望美の瞳に涙が浮かび上がる。
「もういいっ!」
叫び、身を翻した望美は、しかし次の瞬間将臣に抱きしめられていた。
「離してっ!」
「何カリカリしてんだよ。アノ日か?」
背中越しに聞こえる呆れた声に、望美がぷつんと切れる。
「将臣くんのバカ~~っ!」
思いっきり肘鉄を食らわすと、その場にうずくまる将臣を残し、望美は外へ飛び出して行った。
→第6話へ続く