二人の天女

朔2

「ねえ、朔」
「なあに?」
「どうしてみんな私のこと、天女とか女神とか言うのかな?」
ため息交じりの望美の言葉に、朔がくすりと笑みを浮かべる。

「望美はそう言われるのが嫌なの?」
「だって私、そんなすごい人間じゃないもの」
怨霊を封印できる力を持つ望美は十分に稀有な存在であるというのに、全く自覚のない無垢な様に、朔は苦笑を漏らす。

「朔?」

「ごめんなさい。皆がそういうのは、あなたが異世界からやってきたからじゃないかしら」

「でも一緒に来た譲くんは“天使”とか言われたりしないじゃない」

「あなたはこの世界でただ一人、怨霊を封印出来る稀有な力を持っているんだもの。八葉である譲殿とは違うでしょ?」

朔の言葉に望美は不満げな表情を浮かべる。
八葉たちが望美を天女と称するのは、彼女が白龍の神子であるという以外に、彼らの心の奥の想いからだということを朔は知っていた。
皆を守るためにと自ら剣を振るう優しき望美に、皆惹かれてやまないのだ。

しかし、彼女は異世界から召還された人間で、いずれは自分の世界へと戻らねばならない。
だからこそ、彼らは手の届かない世界・天へと還る“天女”と、想いを戒める意味で呼ぶのだろう。

「私が天女なら、朔も天女でしょ?」
「私が?」
「だって、朔は私の対の龍神の神子だもん。朔が怨霊を宥めてくれるからこそ、私は封印できるんだよ」

黒龍の神子たる朔の力は、怨霊の声を聞き、彼らを宥め鎮めるものだった。
対して白龍の神子たる望美の力は、惑い怨霊となった魂を業から解き放ち、浄化するもの。
“癒し”の力だった。

「私とあなたは違うわ」

「同じだよ! 龍神に選ばれた神子だもの!」

「私は天には還れないもの。もし叶うなら、今すぐにでもあの人のいる所へ飛んで行くのに……」

目を細め彼方を見る朔に、望美がしゅんとうなだれる。

「ごめん、朔……」
「いいのよ」

朔と黒龍の恋を知っている望美は、自分の言葉が朔を傷つけてしまったことに落ち込んでしまう。
そんな心優しき対の少女が、朔も大好きだった。
黒龍への想いを断てず、一人苦しんでいた朔に手を差し伸べ、救ってくれた望美。

「あなたこそ本当に天女なのよ」
「え? なに?」
「ううん。なんでもないわ」

きょとんと聞き返す望美に笑顔を返す。
いつか天に帰ってしまうのだとしても。
それでも望美は自分にとって大切な親友であることは変わらないだろう。

「大好きよ、望美」
微笑む朔に、一瞬きょとんとした望美が花がほころぶように笑む。

「私も朔が大好きだよ!」
Index Menu ←Back Next→