『力ではなく望みを叶える方法――それは言葉だ』
迷っていた望美に、そう教えてくれたのはリズヴァーンだった。
「ねぇ、先生」
「なんだ?」
楽園だと、色とりどりの花が咲き乱れる『秘密の花園』をそう称したリズヴァーンが、望美の呼びかけに優しく振り返る。
「先生はあの時、私が先生にこの世界に残って欲しいって、そう言えずに悩んでいたことが分かっていたんですか?」
いつも望美の心が読めるかのように、悩みを的確に見抜きアドバイスしてくれる師に、彼の教え通りに抱いていた疑問を言葉にする。
そんな望美に、リズヴァーンは一瞬目を瞠ると、表情を和らげ否定した。
「いや……お前が思い悩んでいるのは分かったが、それが私のことだとは思わなかった」
「そっか。先生はいつも私のことお見通しだったから、てっきりそうなのかと思いました」
「だが――」
言葉を続けるリズヴァーンに、望美が小首を傾げ彼を見る。
「だが……嬉しかった」
「先生……」
「お前が思い悩んでいるのは他の者だろうと……そう思っていた。だからお前が引き止めたいと、そう願っていたのは私だと知り、とても嬉しかった」
幸せそうに微笑むリズヴァーンに、望美の口も自然と綻ぶ。
自分のために今まで人生の全てを……命さえも賭してくれた愛しい男性。
望美の命を救うためにと剣を磨き、望美に関わると知った九郎に剣を教え、望美自身にも自らの身を守る術を教えてくれた。
始めの感情は師と弟子のそれ。
しかしいつしかかけがえのない、ただ1人愛する人へと変わっていた――お互いに。
「先生。ずっと一緒にいましょうね。もっともっと2人で幸せになるために」
笑顔で告げる望美に、穏やかに微笑み抱き寄せる。
戦のない、何より望美が命を脅かされることのないこの世界。
それはリズヴァーンにとっては楽園と呼べるものだった。
それなのに、望美はもっと幸せになろうと手を引く。
これで終わりじゃない、これからもっと幸せを2人で感じるのだと手を引く。
「ああ。行こう。お前と共に……いつまでもずっと」
望美の運命を変える要因になってはならないと、必要以上に接触することをずっとこの身に禁じてきた。
しかし今ここにあるのは、リズヴァーンが望んだ以上の……愛しい望美と自分が寄り添う新しい未来、運命。
彼女のぬくもりをこの身に感じることが出来る幸福が、リズヴァーンの心をこれ以上になく満たす。
「お前のその微笑みのために、これから先を生きていこう」
望美が笑っていられるこの楽園を生涯手放さないために、自分の全てを彼女に捧げて。
春日望美を愛しているから――。