目が覚めて、いつものように朝ご飯の支度をしようとした市香は、ふとした違和感を覚える。
(なんでこんなに視線が低いの?)
まるで床に寝転んでいるかのように、彼女の目に映るのは床を中心とした世界。
(え? 私、まだ寝ぼけてるの?)
目が覚めた気がしたが、もしかして夢を見ているのだろうかと、きょろきょろと辺りを見渡し、気づく黒い手。
色だけではない。それはまるで――。
(猫……の手?)
慌てて鏡を見ようとするも、それはずっと壁の上の方で、洗面台の上にのぼれたら見えるかなと駆けて行くと、その軽さに驚く。
(猫って本当に身軽なんだ……)
場違いな感想を抱きながら洗面台に飛び乗ると、そこに映る姿は真っ黒な猫。
(私、猫になってる……!)
ようやく事の重大性を認識して市香が固まっていると、がちゃりとドアの開く音の後に眠そうな香月が出てくる。
「……猫? 市香の奴、猫なんて拾ってきたのかよ……」
(違うのよ! 拾ったんじゃなくて私なの……!)
舌打つ香月に、しかし訴えは通じるはずもなく、困った市香は香月の隙をついて家を飛び出すと、あの人の元へと駆けだした。
①柳さんのところへ行く
②岡崎さんのところへ行く
③榎本さんのところへ行く
④笹塚さんのところへ行く
⑤白石さんのところへ行く