「お前ら……どうして……」
「おー無事到着、と。メイちゃん、久しぶり☆」
「久しぶりって……」
困惑する陀宰に、ヒヨリが歩み寄ると、手を差し出す様を見守る。
「――思い出したよ、陀宰くんのこと」
「……っつ」
「ごめんね、時間かかって。……一人にして、ごめんなさい」
ほろりとこぼれる涙に、焦って手を引き袖で拭う陀宰。その姿に痛む胸に目をつむって、今度こそは邪魔をしないと自身を戒める。
「金魚のお墓、一緒にお参りしてくれたよね?」
「……ああ」
「全部じゃないの。でも、陀宰くんは同じ学校たった……そうだよね?」
陀宰が頷く前に響いた場違いな声は、ディレクターのもの。
「ゲームクリアです、おめでとうございます! 見事記憶を取り戻しましたね!」
「ゲームクリア?」
「ええ。勝負は陀宰さんの勝ちです。ああ、でもこの『賭け』のことはみなさんには秘密にしていましたね」
秘密の賭け。その響きに思い出す始まりの日。実はもう一つの『賭け』があると、そう確かにディレクターが言っていた。
「俺と『本来のプロデューサー』で賭けをしていたんだ。消えた記憶のことは話さずに、瀬名が俺のことを思い出してくれれば俺の勝ち。そういうルールだった」
陀宰の説明に、ああと後悔が降る。だからヒヨリに思い出して欲しいと願い、ポイントを貯めて帰還するのではダメなんだと、そう彼は言ったのだ。ヒヨリが思い出すこと。それが彼が唯一帰れる条件だったから。
「本来なら前回配信は終了しているので無効ですが、まあもういいでしょう。異世界配信もこれが最後のようですし」
最後、とディレクターの言葉に彼を見るも、仮面で表情など分かるはずもない。
と、突然辺りが光り出す。それは見覚えのある光景で、とっさにヒヨリと陀宰を見ると、二人も同様に光に包まれているのを確認して安堵した。そして薄らぐ景色と意識に、タイムリミットだと呟いて。終わりに向かって走り出した時間を感じていた。
目覚めるとそこは情報局で、前回配信の時と同様に接触したスポンサーの手で密かに行ったはずなのにと考えたところで、見慣れた姿が視界に入る。
「きみ達は本当に無茶をするね」
「まあ、一度監視下に置いた人間を見逃すわけがないか……意地悪いよね。分かってて言ったんでしょ?」
「さあ、どうだろうね? ただ、一度参加したきみを放置なんかしないかな」
「それ、尾けてましたって言ってるのと同じだから」
この前無理だと、そう言われてスポンサーと連絡を取ったことも分かっていたのだろう。さすがは課長さんだねと皮肉交じりにぼやいてもどこ吹く風の射落に、すみませんと頭を下げたのはなぜか情報局にいる茅ヶ裂。
「お咎めは無しってことでヨロシク~。メイちゃんを連れて帰ってきたんだからいいでしょ?」
「それはそれ、と言いたいところだけど仕方ないね。瀬名くんにも泣きつかれちゃったしね」
射落の言葉にハッと彼を見ると、その後ろから現れたヒヨリが飛びついてくる。
「わっ……と、情熱的だね? 僕は嬉しいけど、みんなの前でこんなことしていいのかな~?」
「良かった、凝部くん起きるの遅いんだもん……」
ヒヨリの言葉に、彼女の目覚めとタイムラグがあったことを悟ってそっとその頭を撫でる。
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」
ぬくもりを伝えて微笑めば、後ろで「僕らもいるんだけど~?」というぼやきを聞き流して、よしよしと背中を柔く撫でる。
「……でメイちゃんは? みんな記憶、戻ってるの?」
「はい。思い出しました。ただ、陀宰くんはまだ……」
「彼は前々回配信からだから、意識が完全に戻るまでもう少し時間がかかると思う。でも大丈夫。情報局の威信にかけて……じゃなくて仲間として、必ず助けるよ」
射落の言葉に安堵すると、寄り添うぬくもりに目を細める。
ようやく陀宰を救えた。次は……俺達だ。
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