彼女がくれたもの

ソウヒヨ1

抱きしめると柔らかいし、一緒に寝たら楽しそう。そんなふうに思っていたけど、現実は全然違くて。穏やかな吐息を繰り返して眠るキミに、ため息がこぼれる。

「彼氏の部屋に来て眠っちゃうとか、普通ありえないでしょ……」

起きる気配がまるでないのは、信用されているのか試されているのか……どちらにしても俺には苦行でしかなく。そっと頭を撫でて、その感触だけで高鳴る鼓動に苦笑する。

(楽しそう……なんて)

全然違う。柔らかいのは本当。伝わるぬくもりも気持ちいい。
でも、鼓動は忙しなくなるばかりで落ち着かなくて、どうしていいか分からない。抱きしめていいのか、このままでいればいいのか。

(やっぱり試されてる?)

嫌われたくない。だって大好きだから。
触れて嫌がられたら立ち直れないし、嫌われたらと思うと怖くて動けない。

「ホント、キミだけだよ。僕にこんなこと思わせるなんて」

あの世界でもヒヨリに抱き着かれた時、どうしていいか分からなくて、その背に腕を伸ばすことが出来なかった。
今もそう。触れたくないわけじゃない。
女の子云々を抜きにしても、目の前に好きな子が……彼女がいるなら、触れたいと思うのは当然だろうと思う。
でも、好きだから。躊躇してしまう自分に苦笑して、開いていた画面を迷って閉じる。このまま作業を続けて膝の上のぬくもりに意識を向けないようにしようかとも思ったが、それは無理だとまるで働かなくなった頭に観念する。

「……おーい、ヒヨリちゃん。このままだと食べちゃうよ~?」

冗談めかして声をかけるも、逆にすり寄られてまた鼓動が跳ね上がる。

「……反則でしょ、それ」

俺の彼女が可愛すぎてつらすぎる。そんな獲端に言ったら「しね!」と悪態をつかれるだろうことを考えて、そっと髪を撫でて頬をつつく。

「僕、そんなに忍耐強くないんだけど~? はぁ」

時計を見てまだ彼女が帰る時間は大丈夫なことを確認すると、腕で支えながら頭の下から膝を抜く。そうして横に寝転ぶと、腕枕に変わってもまだ起きないヒヨリに苦笑しながらそっと抱き寄せた。

「……これぐらいはいいよね?」

もしも怒られたら、寒そうだったから~とか言い訳すればいいかと考えていると、伝わるぬくもりが眠気を誘う。

「そういえば昨日も遅かったっけ……」

学校には行くようになったが、生活習慣というものは簡単に変えられるものでもなく、相変わらず夜更かしをして授業中に居眠りしていると隣からつつかれて「起きないとダメだよ」と優しく注意されていた。
つまらないと思っていた学校が、ヒヨリという存在でこんなにも楽しい場所に思えるのだから不思議で仕方ない。

(ああ、そうか)

抱きしめたら「楽しそう」じゃなく、ヒヨリがいるから「楽しい」んだと、そう実感して笑ってしまう。
楽しくて笑うのも、ヒヨリが教えてくれた。取り戻してくれたから。

(俺を本気にさせた責任、取ってもらわなきゃね)

腕の重みとぬくもりに目を閉じると、優しい眠りへ誘われた。

20181129
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