踊らされてるのは僕の方

郁月5

「君って本当に星バカだよね」
満天の星空に包まれた幸せな時間が終わって、隣りに座る水嶋を振り返った瞬間言われたその言葉に、月子はぱちぱちと瞳を瞬いた。

「まあ、あんなへんぴな場所にある星月学園に来る生徒なんて、みんなそうだろうけどね」

確かに星を見るのは昔から好きだった。
だから高校進学を考える時、迷うことなく星月学園を選んだし、女生徒が自分一人しかいない状況を知っても(これには少し躊躇ったが)通っていた。

「郁も星を見るのは好きでしょ?」
今日のデートにプラネタリウムを選んだのは郁。 それに郁自身、星月学園の卒業生であり、現教員でもあった。

「嫌いじゃないよ。だから今日、君を誘ったんだし」
「だったら……」

どうしてそんなことを言うのだろう?
そう疑問を宿して見つめれば、ふぅと悩ましげな溜息をこぼして、郁がそっと頬に手を伸ばした。

「君があんまりプラネタリウムに夢中だから拗ねたんだよ」

「えっ!?」

「久しぶりに会えたのに、恋人は隣りにいる自分より星空に夢中だなんて、ね」

「それは……っ」

「……嘘だよ。ふふ、君って本当にバカが付くほど素直だよね」

切なげな表情から一転、からかう色を宿した瞳に、月子は自分がからかわれていたことを知り、頬を染め顔をそむけた。
郁はよくこうして月子をからかっては、その反応を面白がることがある。
そのことを知っていても、度々月子はその手に引っかかってしまっていた。

「……郁の意地悪」
「そうだよ。君も知ってるでしょ?」

悪びれずに肯定する姿に頬を膨らませると、宥めるように優しく撫でる指先。
意地悪な言葉に反して、その動きは優しくて、だから月子はいつもそれ以上怒れないでいた。
外に出ると、そこは一転青空が広がっていて、夢の空間から現実へと戻っていく。

「今日のプログラムよかったね」
「そうだね。定番の冬の星座の神話で終わり、じゃないところは新鮮だったかな」
「私は神話も好きだよ」
「なら、今度聞かせてあげようか?」
「本当っ!?」
「お姫様のご希望ならば喜んで」

茶化すような言葉に、けれども素直に月子は喜ぶ。
星を見るのも、星にまつわる話を聞くのも好きで、幼い頃はよく錫也に聞かせてもらっていた。

「本当に星バカ」
「郁」
呆れたように笑う郁の手を引くと、爪先立ちで背伸びして、長身の郁の耳元にそっと想いを伝える。

「プラネタリウムも郁と一緒に見れたから嬉しかったんだよ」
「君って本当に天然だよね」
「え?」

郁の言葉の意を問おうとするのを遮るように引かれた手。

「――そんな可愛いことを言ってると、狼に食べられるって知ってた?」

一瞬重なった唇が弧を描く様を間近に見つめながら、月子の顔は真っ赤に染まった。
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