「……なに? じっと見つめて」
「ううん。ずっと郁の顔、見れなかったから……」
事故に会って以来、自分の責任だと思った郁は別れを決意し、会いに来てくれなかった。
だから、こうして郁を見つめて触れられる今がすごく幸せだった。
「……ごめん」
「謝らないで。それよりも……抱きしめて欲しい」
「うん……」
素直な気持ちを告げると、ぎゅっと抱きしめてくれる腕。
郁の温もりを感じて、会えない間の寂しさがゆっくりと溶けていく。
「郁って綺麗好きなんだね」
「琥太にいと一緒にしないでくれる?」
星月先生の保健室の荒らしっぷりを思い浮かべていると、同じことを考えたらしい郁の返答に笑ってしまう。
「本当はね、ずっと憧れてたんだ。彼氏の部屋に行くのってどんな感じなんだろうって」
「実際来てみてどう? 感想は?」
「……すごく緊張する。でも……嬉しい」
「君は……」
はぁとため息をつく郁に、どうしてそんな顔をするのか分からずに見上げると、郁は困ったように微笑んだ。
「もう少し一緒にいたいけど……残念。時間切れだ」
「あ……」
時計を見ると、学園に戻るための最終バスの時間が迫っていた。
それでも離れがたくて、つい郁の顔を見つめていると、優しいキスが降り落ちる。
「僕もまだ君を離したくない。…このまま泊まっていく?」
「え? ……ええっ!?」
郁の提案に顔を真っ赤に染め動揺すると、くすくすと笑い声が聞こえた。
「冗談だよ。そんなことしたら後で琥太にいに怒られるからね」
「う、うん……」
それでもなかなか顔の火照りはおさまらなくて、郁にバス停まで送ってもらう間も、私の鼓動は高鳴ったままだった。
「もうそろそろだね」
「……うん」
差し迫った別れの時刻に俯くと、郁が優しく抱き寄せる。
「明日もデートしようか。朝一番のバスに乗ってきて?」
「! う、うん!」
思いがけないデートの約束に顔を上げると、愛しげに微笑む郁。
「月子……愛してる」
夜のバス停で、静かに私達の影が重なった。