離れがたいと思うのは、君が傍にいてくれるから

郁月2

「……なに? じっと見つめて」
「ううん。ずっと郁の顔、見れなかったから……」

事故に会って以来、自分の責任だと思った郁は別れを決意し、会いに来てくれなかった。
だから、こうして郁を見つめて触れられる今がすごく幸せだった。

「……ごめん」
「謝らないで。それよりも……抱きしめて欲しい」
「うん……」

素直な気持ちを告げると、ぎゅっと抱きしめてくれる腕。
郁の温もりを感じて、会えない間の寂しさがゆっくりと溶けていく。

「郁って綺麗好きなんだね」
「琥太にいと一緒にしないでくれる?」

星月先生の保健室の荒らしっぷりを思い浮かべていると、同じことを考えたらしい郁の返答に笑ってしまう。

「本当はね、ずっと憧れてたんだ。彼氏の部屋に行くのってどんな感じなんだろうって」

「実際来てみてどう? 感想は?」

「……すごく緊張する。でも……嬉しい」

「君は……」

はぁとため息をつく郁に、どうしてそんな顔をするのか分からずに見上げると、郁は困ったように微笑んだ。

「もう少し一緒にいたいけど……残念。時間切れだ」
「あ……」

時計を見ると、学園に戻るための最終バスの時間が迫っていた。
それでも離れがたくて、つい郁の顔を見つめていると、優しいキスが降り落ちる。

「僕もまだ君を離したくない。…このまま泊まっていく?」
「え? ……ええっ!?」

郁の提案に顔を真っ赤に染め動揺すると、くすくすと笑い声が聞こえた。

「冗談だよ。そんなことしたら後で琥太にいに怒られるからね」
「う、うん……」

それでもなかなか顔の火照りはおさまらなくて、郁にバス停まで送ってもらう間も、私の鼓動は高鳴ったままだった。

「もうそろそろだね」
「……うん」
差し迫った別れの時刻に俯くと、郁が優しく抱き寄せる。

「明日もデートしようか。朝一番のバスに乗ってきて?」
「! う、うん!」

思いがけないデートの約束に顔を上げると、愛しげに微笑む郁。

「月子……愛してる」
夜のバス停で、静かに私達の影が重なった。
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