指を絡めて、寄り添って

郁月1

月子の姿を見つけ、歩み寄ろうとして足が凍る。
彼女の傍に立つ見知らぬ男。
楽しげに笑う君。
それは僕にいつも向けてくれる眩い笑顔で。
彼女の傍に行きたいのに、まるでその場に縫い付けられたように一歩も動けなかった。

あいつは誰だ?
ぐるぐると嫉妬が渦巻いていると、男が突然月子に抱きついた。

「あっ、郁!」
僕に気がつき嬉しそうに微笑む君の腕を取って。
呆然としている男には目もくれず、少し乱暴に、引きずるようにその場を離れる。

「い、痛いよ……いきなりどうしたの?」
「彼氏である僕と待ち合わせをしているのに、よく他の男と楽しそうに話が出来るよね? わざとなの?」
「ち、違うよ。誤解だよ!」

驚く君を見下ろして、わざと辛辣な言葉を浴びせかける。
こみ上げる感情とは別の、心の奥底が冷える感覚。
僕はまた裏切られるのか?
思い出された絶望に、周囲が一気に色あせた。

「ずいぶん、楽しそうに話をしてたよね? 彼に気移りした?」
「小熊君は星月学園の弓道部の仲間だよ」

月子の言葉に、そういえば彼女は保健係のほかにも弓道部や生徒会に入っていたことを思い出した。

「卒業してから星月学園に行ったことなかったから、今の弓道部や学校の様子を聞いていたの」

「話を聞いていただけ? 僕には抱き合っているように見えたけど?」

「あれは小熊くんが落としそうになったものを拾い上げようとしてただけ……」

なおも言い訳する君の唇を塞いで言葉を奪う。
他の男の話なんて聞きたくない。
君が他の男の名を紡ぐなんて嫌だから。

「私が好きなのは郁だけだよ」
どれほどの間キスしていたのだろう、ようやく唇を離すと、君は僕をまっすぐ見つめた。

「私がずっと一緒にいたいと思うのは郁だから。だから、他の人に気移りなんて絶対しない」

そうやって言い切る姿は偽りなんて感じられなくて。
私は絶対に郁を裏切らない――そう告げられているようだった。

柔らかな手が僕の手を取る。
暖かな手。
姉さんを思い起こさせる、暖かで優しい手。

「私は郁の傍にいるよ。……傍にいたい」
抱き寄せたぬくもり。
弱い僕を受け入れ、包み込んでくれる優しいぬくもり。

「悪いと思うのなら、今日は僕以外見ないこと」
「え?」
「僕以外と話さず、僕だけを瞳にうつして」
「ど、どうやって?」
問いかけに微笑んで、顎を掴んで口づける。

「こうやってキスしていれば、僕以外と話せないし、僕以外うつせないよ」
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