ぶっと噴き出した星月に、月子は真っ赤な顔で頬を膨らませた。
「トマトだな」
「星月先生はいつも急すぎですっ」
琥太郎からのキスは不意打ちが多い。
だから月子はいつも驚かされ、そのたびにこうして顔を赤らめていた。
「お前に許可をとる方がいいのか?」
「……う。それは……恥ずかしいです」
「お子様」
「……どうせ子どもです」
キスをすると宣告されてするのもまた恥ずかしいもので、月子が眉を下げると星月は楽しそうに肩を揺らした。
確かに星月はいつも余裕たっぷりで、キスだけでこんなに動揺するのは月子だけ。
その違いが悔しくて……悲しくて。
月子はきゅっとスカートのすそを握りしめた。
「夜久。顔を上げなさい」
「…………」
「月子」
二人きりの時だけ呼ばれる名前に、月子はそっと顔を上げると、星月が手招いた。
「悪かった。お前が嫌なら不意打ちはしない」
「……別に嫌じゃありません。恥ずかしいだけなんです」
「そうか。安心した」
「星月先生?」
「もうお前にキスできないかと思った」
「……っ、そんなこと……」
慌てて否定しようとして、顔が近寄って。
再び重なった唇に、反論がすべて封じられる。
「夜久は可愛いな」
「……どうせ『お子様』です」
「なんだ? 拗ねてるのか?」
ついこぼれた不満を笑われて、月子の瞳に涙が浮かぶ。
「私は学生で、何も知らない子どもですから」
大人ならば、こんなことで動揺もしないのだろうし、並んで歩いても叔父と姪にみられることだってないのだろう。
先日のとある出来事は月子の胸に棘となって刺さっていて、それが星月の言葉に再び痛みをもたらした。
星月は大人で、女の人が放っておかないほど容姿もよくて。それに比べて、月子は親の保護を受けている学生で、文字通り『子ども』だ。
普段は気にしないようにしている不安がどんどん大きくなって、月子の瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。
「……そうだな。俺は大人で、お前は学生だ」
「…………」
「お前が嫌なら……仕方ないな」
「!」
ばっと顔を上げるとぶんぶんと首を振って、星月の白衣をぎゅっと握る。
「私は、星月先生が好きです」
「だが、俺じゃなければ、そんなふうに悩むこともないだろ?」
「悩んだっていいんです。釣り合わないって言われても、私は星月先生が好きだから。だから、星月先生が離れてしまうのは嫌です」
星月は月子のことを考えて身を引こうとしてしまう。それをわかっているから、月子は必死に手を伸ばした。
星月が離そうとするのなら、月子が離さない。
同級生じゃなくたっていい。切ない思いをしたっていい。星月が、好きだから。
「夜久……」
「だから、先生が私を離そうとしても離れません。私は、星月先生の傍にいたいんです」
絶対に離さない……そう意志を込めて白衣を握りしめていると、星月が苦笑して。
ふわり、と腕の中に抱き寄せられた。
「……ああ。すぐに逃げ出す俺を、そうやって捕まえててくれ」
「はい。絶対離しません」
白衣を離して背に腕を絡めると、抱き寄せる腕の力が強くなる。
不安はある。
年の差が気にならないと言えば嘘になる。
それでもこの手を離したくないから。
初めての恋に戸惑いながら、月子は必死に愛しい人を抱きしめた。