綴じた目蓋に口吻を

琥月18

ふと目が覚めて隣を見て、綺麗な寝顔に見入ってしまう。
星月琥太郎。
月子の旦那様。
保健室で眠る姿を何度と見ていたが、やはり綺麗だと見つめていると、ふと昔読んだ絵本の白雪姫を思い出した。
毒リンゴを食べて眠りについてしまった白雪姫に、通りかかった王子が口づける。
それは美しいものに出会った時に、思わず触れてみたくなる心理なのだろう。――今の月子のように。

少しだけ身を起こすと、そっと柔らかなキスを目蓋に落とす。
その時、こぼれた髪が琥太郎の頬を撫でてしまい、小さく唸ると目を覚ましてしまった。

「……ん……もう朝か……?」
「おはようございます。今日はゆっくり寝ていて大丈夫ですよ」

忙しい琥太郎は家に帰れない日もあり、今日は久しぶりの休みだった。
だからゆっくり眠ってほしいと頭を撫でると、その手を取られ、ねだるように手を引かれる。

「琥太郎さん?」
「おいで」
招きに素直に応じると、腕の中に閉じ込められて、寝起きのぬくもりが伝わってくる。

「あたたかいですね」
「ああ」

微笑むとさらに気配が近づいて……ちゅっと目蓋にキスが落ちる。
もしかして先程キスしたのに気づいたのかと顔を赤らめると、なんだ? と見つめられて、逡巡した後に何でもないですと胸に顔を埋めた。
もしも問うて違った場合、自分からばらしてしまうのが恥ずかしいからだ。

「お子様」

「……っ、お子様にキスしたのは琥太郎さんです」

「そうぶちゃむくれるな。可愛い妻が目の前にいたらキスをしたくなるのは当然だろう?」

「……その言い方はずるいです」

そんなふうに言われたらからかわれて拗ね続けることも出来なくて、頬を膨らませると笑われ、もう一度優しいキスが目蓋に降る。

「お前ももう少し寝なさい。昨夜は遅かったんだ。急いで起きる必要はないんだろう?」

「……っ、それは……」

「それとも昨夜の続きでもするか?」

「…………!」

甘い響きに瞬時に昨夜のことを思い出してますます顔が赤くなると、大きな掌がさらりと髪を撫でる。

「冗談だ。もう少しここにいてくれ。たまの休みだ。お前を感じていたい」

素直なおねだりに身を委ねると、いい子だというように髪をまた撫でられて。
子ども扱いされてるようで複雑になりながらも気持ち良くて、気づくと再び眠りに落ちていた。
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