「好きって言ってください」
いつものように月子を家に送り届けて、彼女を見送ろうとしていた琥太郎にかけられた声。
デートも終わりを迎えて、後は帰るだけとなった頃から月子の口数が減っていたことには気づいていたが、運転中ということもあり追及せずにいたら、着いてもなかなか降りようとしない彼女が口にしたのが先程の言葉だった。
「どうした? 淋しくなったか?」
「違います。淋しくないわけではないですけど……でもそれでこんなことを言ってるわけじゃありません」
優しく問うも頑なな反応に、ハンドルを握ると駐車場へ向かう。
「琥太郎さん?」
「路上に止めたままじゃ邪魔になるからな。上がっても構わないか?」
「え?」
返事を待たずに彼女の部屋を訪れる時によく利用している時間貸しのパーキングに入れると月子を促して、彼女の部屋へと歩いて行く。
「……すみません」
「構わないよ。何かあったのか?」
腰をおろすとお茶を差し出す月子に問いかけるとわずかな沈黙が落ちて。
おずおずと重い口を開く。
「水嶋先生から聞いたんです。星月学園に教育実習生が来てたって」
「ああ……それでか」
月子の話で思い出したのは、先月まで教育実習に来ていた星月学園の卒業生と同じ大学ということで受け入れた女子大生のこと。
学園長室で顔を合わせた時に気づいていたが、琥太郎にとってはよくあることで、また教育実習生ということから気にしていなかったが、何かにつけて関わろうとする姿に郁が苦笑していたものだった。
「郁がなんて言ったかは知らないが、何もなかったぞ?」
「わかってます。水嶋先生も琥太郎さんは相手にしてなかったって言ってました」
ならばどうして、と聞こうとして飛び込んできた身体を受け止めると、月子が見下ろす形でくしゃりと顔を歪めた。
「琥太郎さんは素敵な人だから、離れていると時々不安になるんです」
水嶋の姉との過去から恋をする資格は自分にはないと、月子の想いを何度となく拒否していた琥太郎。
最終的には根負けしたように受け入れてくれたけど、子どもっぽさを気にしている月子は自分に自信がなく、いつも不安を抱えていた。
「……無理だな」
「…………っ」
琥太郎の呟きに悲しそうに俯いた月子を抱きしめて、顔を上向かせると眦にキスを落とす。
「俺の想いは好きじゃ足りないからな」
「……え?」
呟きの意味を誤って捉えていたのだろう、月子の頬を撫でると口づけて。
驚きの言葉も封じてキスを深く繰り返せば、軽く息を乱した彼女にくすりと笑む。
「俺の想いを疑った罰を与えなきゃな。苦情は聞かないぞ?」
指で唇を撫でて見つめると瞳に熱情が宿るのを見て、ゆるりとその身を床に倒した。
2018/10/13