ふ、と触れていたぬくもりが離れて。
見上げた視線がぶつかって、見慣れた顔が真っ赤に染まる。
「ばっ……おま、こっち見んなっ」
「哉太だって……っ」
照れ隠しの言葉は、けれども月子も一緒で。
二人共、互いから視線を外して俯いた。
幼馴染である哉太と恋人になって数年。
今までと同じようで違う、そんな関係の変化を感じながら過ごす毎日の中で、時々こうして触れ合う瞬間があった。
哉太は照れ屋で、だからそういった雰囲気になった時は、ほんの少しの気まずさがあって。
けれども壊れ物のように触れる唇はいつも優しいから、哉太とのキスはドキドキと安堵に包まれる。
もっと、触れていたい。
哉太のぬくもりを感じていたい。
そんな想いを抱くようになったのは、いつからだろう?
離れていく唇が、消えるぬくもりが寂しくて、だからつい目を開けてしまった。
瞬間、ぶつかった視線。
驚いたように見開かれた瞳は、一瞬のうちに顔を真っ赤に染めて、先程まで月子に触れていた少しかさついた唇は、いつものように悪態を紡ぐ。
「普通、キスする時は目をつむってるもんだろっ」
「私はつむってたよ。開けてたのは哉太じゃない」
「な……っ! 俺は、その……目開けてないと、どこにあるかわからないだろっ!」
「そんなのずるいよ!」
「ずるくねえ!」
いつものように言い合いに発展して、月子がぷいっと顔をそむける。
「……おい」
「……………」
「月子」
「……………」
完全にへそを曲げた恋人に、哉太は苛ただしげに髪をかき上げると、強引に引き寄せた。
「……その、悪かったよ」
力強い腕に抱きしめられて響く謝罪の言葉。
再び感じたぬくもりに、そっと背中に腕を伸ばして抱きしめた。
「月子? まだ怒ってるのか?」
窺うような問いに、ふるりと首を振ると腕を解いて。
代わりに背伸びをして、自分から彼の唇に口づける。
「…………!」
「もっと、して」
恥ずかしさに胸に顔を押しつけながら伝えると、壊れんばかりに早鐘を打つ鼓動を頬に感じて。
ぎゅっと、再び抱きしめられる。
「……お前、それ、反則だろ」
「え?」
照れの混じった低い声に、視線をあげた月子の瞳がうつしたのは、情欲を宿した恋人の顔。
「煽ったのはお前だからな……」
真っ赤な顔が近寄って、二人の影が重なった。