「……! お嬢様っ!」
ルカの切羽詰まった声に振り返った瞬間、強い力で抱き寄せられ。
どさどさと、重い荷が崩れる音が響き渡った。
「……大丈夫ですか? お嬢様」
「……ルカ!」
額から流れ落ちる血に、それでもルカが心配するのは自分ではなくフェリチータ。
程なく助けられ、手当てを受けるルカを見守りながら、どくんどくんと大きく波打つ心音に、フェリチータの胸に恐怖が広がっていた。
* *
「……え? どういうことですか?」
事故から一週間後。
幸いにもルカの怪我は軽いうち身と、額をかすめただけで済んだ。
それでも安静を言い渡され、一週間従者の仕事も休ませられて、久しぶりに執務室に赴いたルカはフェリチータの発言に驚きをあらわにした。
「今後巡察に付き添ってはいけないなんて……」
納得できないというように戸惑いを浮かべ見つめるルカに、フェリチータはあの事故のことを思い返した。
ルカは誰よりもフェリチータを大切にしてくれる。
父を救うために『運命の輪』を使った時も、制御できず暴走した能力を抑え足りない力の代わりに『リ・アマンティ』に自らの心を差し出した。
ヴァスチェロ・ファンタズマでその事実に気がついた後も、今後も足りない時にはいつでも差し出すと、微笑みルカは告げた。
「言葉通りだよ。私は一人で大丈夫だから」
「……それは私は不要だということですか?」
「…………っ」
傷ついたその表情は以前にも見たもの。
それでも違うと言えばルカが引かないことはわかっているので、フェリチータは無言を貫いた。
「フェリチータ」
名を呼ばれると無視することも出来ず、フェリチータは気まずいながらも視線を向けた。
「私は以前、貴女に言いましたね。貴女のお傍にずっといたいと」
「……わかってる。でもそれじゃだめ」
「どうしてですか?」
「ルカは……自分を大切にしないから」
「!」
「ルカ、前に言ったよね? とにかく自分のことを大切にしてください……って。私もルカが大事。だからルカ自身を大切にして欲しい」
守ってくれるのは嬉しい。
けれどそれでルカが傷つくのなら……傍にいることで自身を蔑ろにしてしまうなら。
あの時感じた恐怖心を思い出し自分を抱きしめると、ルカがそっと手を伸ばした。
「すみません……。貴女を追いこんでいたのは私だったんですね」
「……っ」
「わかりました。私は貴女を守り……自分も守ります。だから傍にいることを許してくれますね」
「ルカ……」
「私はあの時のように貴女が危険な目に合うようなことはもう許したくはありません」
ルカが言っているのは、フェリチータの成長のためにと傍近くにいることを控え休暇をとっていた時のこと。
以前捕えたものの策にはまり、眠り香を嗅がされた件だった。
「貴女を悲しませるようなことはしないと誓います。だからフェリチータ、私を貴女の傍にいさせてください」
「……うん」
約束だよ、そう呟くフェリチータに頷いて。
彼女の心に巣食う恐怖を追いやるように、震える身体を強く抱き寄せた。