「ねえ、ルカ」
「なんですか? フェリチータ」
「どうして私は『ドンナ』なの?」
アルカナ・デュエロは元々『世界』のタロッコの影響で自分の命が長くはないとわかった父・モンドが、一人娘であるフェリチータの将来を案じ、自分で未来を切り拓く力を備えさせるためと、フェリチータを公私ともに支える存在を見つけるために催したものだった。
「私は女だから『パーパ』じゃおかしいのはわかるけど、『ドンナ』じゃなんだか……」
「『貴婦人』はお気に召しませんか?」
「……なんだかかしこまりすぎる気がする」
ファミリーの第一夫人、という意味合いでもあるのだからトップとなった自分への名称としてはおかしくはないだろう。
だが自分はまだまだ幼く、貴婦人と呼ばれるほどの気品も持ち合わせていない。
それがどうしてもフェリチータには気になってしまった。
「あなたは十分貴婦人ですよ、フェリチータ。なんせ私が幼い頃からずっとお世話してきた自慢のお嬢様なのですから!」
「……ルカは私を甘やかしすぎ」
「ええ!? そ、そんな……!」
以前、メイド・トリアーデに指摘されて、フェリチータは自分がどれほどルカに甘えていたかを知った。
それからは自分でやろうと決めたのだが、当のルカが相変わらず至れりで世話をしてしまうのだ。
「では……『マンマ』の方がいいですか?」
マンマはファミリーのトップであるパーパを支える奥方で、現在も母が呼ばれている呼称。
「『マンマ』は……その、まだ早い……」
「!!」
頬を赤らめ俯くフェリチータに、ルカはその前にしゃがみこむと顔を覗き込んで微笑んだ。
「そうですね。『マンマ』は本当の母になった時……私とあなたが結婚して、子を成した時ですよね」
「ルカ……っ」
「そのためにも早くパーパに結婚を認めてもらわなければいけません」
デュエロの勝者に娘をやると豪語していたモンドは、しかしフェリチータが優勝したことで態度を一転、まだ早い、認めないと駄々をこね始めた。
「でも、今はドンナとして皆に認められるように頑張らなきゃいけないもの」
「え? まさか貴女まで結婚はおあずけ、なんて言うんですか!?」
「えっと……」
ガーン! と大きなショックを受けているルカに、フェリチータは困ったように微笑む。
アルカナ・ファミリアに入り、ファミリーの一員となってまだ半年余り。
ようやく剣の仕事も覚え始めたところで、今度はドンナの地位について一から仕事を覚えなおすことになったのだ。
正直なところ、それだけで手いっぱいでもあった。
「私がフェリチータに負けたばかりにこんな……」
いじいじといじけモードに突入したルカに、フェリチータは小さく息を吐くと頬に手を添え、そっとその唇に口づけた。
「フェリチータ……」
「ちゃんとルカのこと好きだから……それじゃダメ?」
下から見上げる仕草が可愛らしくて、堪えきれずにルカは離れた唇を追う。
「ん……は……ぁ」
「それならこうして確かめても良いですか? 貴女が私を愛して下さっていることを……」
「うん……」
頬を上気させ目を潤ませるフェリチータに、ルカは今が夜ならばよかったのにと恨めしく外を見つめた。