キスして

ルカフェリ3

「お嬢? どうかしたのか?」
剣の仲間と巡回中、足を止めたフェリチータの視線を追えば、そこにいたのはキスを交し合う恋人達。

「仲睦まじい二人ですね。お嬢もルカに会いたくなりました?」
「今日はパーパに呼ばれて珍しく別行動だものね」

アルカナデュエロ後に付き合い始めたことを知っている剣のコートカードに、フェリチータは恋人達を見つめたまま疑問を口にした。

「頬と唇は違うものかな」
「それは全然違うでしょ。頬は親愛の証、唇は愛しい恋人のみ」
「お嬢だってそうだろう?」
「……………」

照れながらもうんと返すのだろうと予想していたのだが、反して返ってきたのは曇り顔。

「お嬢?」
「……え? まさか、まだルカとキスもしてないとか?」
「おかしい……かな」
「おかしいのはルカでしょ! こんなに可愛いお嬢を前にしてキスの一つもしないなんて……!」
「シモーネ」

嘘、信じられないと騒ぎ立てるシモーネをアントニオが嗜める。

「まあ、ルカは13年もの間お嬢への想いを隠してきたやつだからな。すぐに切り替えられないのかもしれないよ?」
「そうかな?」
「まあ、あの忍耐力はちょっと尊敬するよね」

すかさずフォローするジョルジョとラファエロに、フェリチータは俯いていた顔を上げた。


その夜。
いつものように眠る前の飲み物を運んできたルカをフェリチータはじっと見つめた。

「お嬢様? どうかなさいましたか?」

「キスして」

「は? ……ってお、お嬢様っ!?」

「……いやなの?」

「そ、そんなことはありませんっ! ありませんがその、突然そのようなことを言われても心の準備というか……」

思いっきりうろたえるルカにため息をつくと、フェリチータは自分から腕を伸ばした。

「……ん……フェリ……チータ?」
「……唇でのキスは初めてだね」

マンマと三人で暮らしていた頃は、おはようとおやすみ、何度となくキスを交わした。
けれどもそれは頬に口付ける親愛のキスで、唇への恋人のキスはこれが初めてだった。

「そう、ですね。でもどうして急に……」
「今日、巡回の時――」

戸惑いを隠せないルカに、今日巡回中に見た恋人達のことを話す。
恋人達はキスを交わし、とても幸せそうに微笑んでいた。

「私も……ルカとキスしてみたいと思ったの」

傍にいるだけですごく幸せだけど、キスをするともっと幸せなのだろうか?
恋人達に抱いた疑問をフェリチータは確かめてみたのだ。

「……どうでした? 恋人と……私とキスをして」
「……すごくドキドキする」

吐息を感じるほどに近い距離に。
普段よりもずっと甘く聞こえる声に。
ドキドキと、胸が高鳴る。

「私も同じです」
「ルカもそうなの?」
「はい。フェリチータに触れていると……衝動が堪えられなくなります」
「…ん……ぁふ……ん」

再度のキスはルカから。
ただ重ねただけのフェリチータとは違い、柔らかく啄ばむようなキスに、頭の奥がぼおっとして何も考えられなくなってくる。

「お嬢様?」
「……何か違う」

昼間見た恋人達はこんなに蕩けるような気持ちだった?
彼らの表情は……幸せそうだったけど熱に浮かされたこんな状態だった?

「え……お、お気に召しませんでしたか?」
「…………」

黙りこんだフェリチータに、がーんとショックを受けるルカ。
そんな深くはしてないですよね?、もしやがっつきすぎましたか? と一人うろたえるルカに抱きついて。
もう一度して、と耳元で囁いた。
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