小さな恋の物語

ルカフェリ2

「……お姫様は幸せになりました」
物語を読み終え振り向くと、フェリチータは目をキラキラと輝かせ微笑んだ。

(ああ、お嬢様はなんて可愛らしいのでしょう……!)

他者を遠ざけ、スミレとルカとフェリチータ三人だけの生活。
しかしルカはこの生活に不満を感じることはなかった。
もちろん始めの頃は、警護の他に料理など従者として家事も覚えなければならず忙しなくはあったが、それでもスミレも手伝ってくれたし、何より純粋な瞳を自分に向けて微笑むフェリチータが愛らしくて、ただ彼女が微笑んでくれるだけでルカは何をしても楽しく思えた。

「ねえ? ルカは王子様?」
「は? お嬢様?」
「ルカが読んでくれる物語の王子様は、優しくてかっこよくて……ルカみたいだもの」
「!!」

無垢な笑顔に射抜かれ、その愛らしさに浸っていたルカは、我に返ると違いますよと首を振った。

「私は王子様ではありません。お嬢様の王子様は……もう少し大きくなったら現れますよ」

そう……今は事情があって他者との接触を避けているが、ずっとこのままということはない。
いずれは広い世界を知り、色々な人々と出会い、そして――。
その先を考えた瞬間、つきりと胸に痛みが走った。

「大きくなったらってどれぐらい?」
「どれぐらいでしょうね。お嬢様はどれぐらいがいいですか?」

逆に問い返せば、フェリチータは愛らしい眉を寄せてうーんと考え込んでしまった。

「……王子様と出会ったら、マンマやルカとは一緒にいられないの?」
「……そう、ですね」

嫁いだ先にまで着いていくことはさすがに許されはしないだろう。
それに他の男に寄り添うフェリチータを、自分は冷静に見守ることが出来るだろうか。

「だったらまだいい」
「お嬢様?」
「ルカと離れたくないもの。だから王子様はまだいいの」
「……お嬢様!」

きゅっとルカの服の裾をつかむ仕草に、胸に渦巻いていた不安が瞬時に霧散する。
いつかこの手は、ルカではなく違う者をつかむだろう。
それでも、今は。
お傍にいられる今だけは。

「さあ、ドルチェを食べましょう。スミレ様も待っていると思いますよ」
「うん」

小さな手を掬い上げると、自分の掌で包み込みこんで家の中へと促し歩く。
見つめれば微笑が返る幸福。
今だけは、フェリチータの瞳に映る男は私だけに。
そんな想いに目を瞑って、ルカはフェリチータの大好きなドルチェの用意をするのだった。
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