「あの、スミレ様」
「なに? ルカ」
「お嬢様はよくじっと顔を見つめられるのですが、どうしてなんでしょうか?」
ルカの素朴な疑問に、スミレは淹れてもらったお茶を口に運ぶとふふっと微笑んだ。
「あの子はね、人の心が読めるのよ」
「心が……読める?」
「そう。アルカナ能力でね」
「! もしかしてお嬢様は二つのタロッコと契約を?」
「……ええ」
ルカの驚きは当然だ。
この家に移り住むわけとなった『運命の輪』とは異なる能力。
それは、フェリチータが他のタロッコとも契約をしている証だった。
「お嬢様もジョーリィが?」
「いいえ、違うわ。フェリチータは生まれた時にはすでに契約がなされていたの」
「生まれた時に……?」
タロッコは選ばれし者が血によって契約を成すのが通常。
しかしその手順を踏まずして契約がなされることがあるのだと知り、ルカは驚いた。
「ねえ? あの子はあなたのことが大好きでしょう?」
「は、はい」
「それはあなたがあの子のことを大好きだからよ」
「僕がお嬢様のことを大好きだから……」
もしルカの心の中にフェリチータを疎む気持ちがあったならば、あのように懐くことはないだろう。
たとえそれが接触できる限られた人間であったとしても。
「あの子の能力はまだまだ弱いものよ。
だからいつでも覗けるわけではないわ。
だけど人が自分のことをどう思っているかは、たとえ能力がなくとも伝わるもの……そうでしょう?」
「はい」
「だからあなたはそのままであの子の傍にいてあげて。ほら、迎えに来たようよ?」
「え? お嬢様!」
スミレの視線を追ってドアを見れば、そこには先程眠ったはずのフェリチータが立っていた。
「怖い夢を見たのね。さあ、一緒に寝ましょう」
「ルカがいい」
「あら」
腕を伸ばすスミレにいやいやと首を振ると、ルカに走り寄ったフェリチータにくすくすと微笑んだ。
「ルカ、お願いしてもいいかしら?」
「はい。さあ、お嬢様。行きましょう」
「……一緒に寝てくれる?」
「もちろんです」
「おやすみなさい、フェリチータ」
「おやすみなさい、マンマ」
駆けこんできた時とは一転して笑顔を浮かべ、ルカと共に出ていったフェリチータを見送った後、スミレは小さく息を吐いた。
「……モンドが知ったら大泣きするわね」
どちらもまだまだ幼さが抜けないとはいえ、娘が他の男と同じ布団で寄り添って寝ているなどと知れば、親馬鹿この上ない夫の反応は想像に容易い。
スミレは少し冷めたお茶を飲みながら、そんな夫の姿を想像し笑みを浮かべるのだった。