ズルイひと

ルカフェリ23

「………はぁ」
「お嬢様?」
「……最近ルカは、よくそう言うよね」
フェリチータのため息に、ルカは先程の自分の発言を思い出す。

『もっと傍にいて欲しいですか? 朝までずっと』

「あの……ささやかな冗談、なんですよ?」
「本当に冗談?」

じっと見つめられて、ルカは動揺を必死に抑える。
フェリチータに向けた言葉。
それは確かに半分は冗談で、彼女の照れる顔を見るのが嬉しくて告げているものだった。
けれどもう半分は……心の奥に隠した、欲。

「……冗談でなければどうしますか?」
「…………っ」

問いにカッと染まる頬。
それでもそれ以上を強いることをしないのは、彼女が誰よりも大切だから。

「顔、真っ赤ですね」
指摘すれば、案の定返ってきたのは得意の蹴り。

「ぐは……っ」
「……バカッ」
たくさんの【好き】が込められた【バカ】は、幸せな響きでしかルカの耳には届かない。

「そのバカ、いいですね。もう一度言ってもらえませんか?」

「……ルカ、マゾ?」

「そ、そんなことありません! ただ私は、お嬢様が照れてる顔が可愛くてですね……」

「……はあっ!」

「がは……っ! お、お嬢様……」

綺麗な足から再び繰り出された見事な蹴り。
その場に崩れ落ちたルカに、フェリチータは真っ赤な顔で去っていく。

今はまだ、これでいいと、そうホッとしている自分が胸の中にいる。
本音をいえば、フェリチータの身体も得たいと、そう考えたことがないわけではない。
愛しいからこそ欲し、愛しいからこそ制する。
得たいのは、彼女のすべて。

「……だから今は、まだ気付かないでいてください」

そう言いながら彼女を惑わせるのは、自分の狡さ。
気づいて欲しくない。
けれども……気づいて欲しい。
欲してほしい。
自分が彼女を求めるように、彼女に自分を求めて欲しい。
そう望む、浅ましき心ゆえ。

「貴女を愛してます。フェリチータ」

手袋越しの冷たい金属の感触に微笑みながら、彼女が立ち去った空間に一人呟くと、ルカは愛の蹴りで痛む脇腹をさすりながら、部屋へと戻っていった。
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