「………はぁ」
「お嬢様?」
「……最近ルカは、よくそう言うよね」
フェリチータのため息に、ルカは先程の自分の発言を思い出す。
『もっと傍にいて欲しいですか? 朝までずっと』
「あの……ささやかな冗談、なんですよ?」
「本当に冗談?」
じっと見つめられて、ルカは動揺を必死に抑える。
フェリチータに向けた言葉。
それは確かに半分は冗談で、彼女の照れる顔を見るのが嬉しくて告げているものだった。
けれどもう半分は……心の奥に隠した、欲。
「……冗談でなければどうしますか?」
「…………っ」
問いにカッと染まる頬。
それでもそれ以上を強いることをしないのは、彼女が誰よりも大切だから。
「顔、真っ赤ですね」
指摘すれば、案の定返ってきたのは得意の蹴り。
「ぐは……っ」
「……バカッ」
たくさんの【好き】が込められた【バカ】は、幸せな響きでしかルカの耳には届かない。
「そのバカ、いいですね。もう一度言ってもらえませんか?」
「……ルカ、マゾ?」
「そ、そんなことありません! ただ私は、お嬢様が照れてる顔が可愛くてですね……」
「……はあっ!」
「がは……っ! お、お嬢様……」
綺麗な足から再び繰り出された見事な蹴り。
その場に崩れ落ちたルカに、フェリチータは真っ赤な顔で去っていく。
今はまだ、これでいいと、そうホッとしている自分が胸の中にいる。
本音をいえば、フェリチータの身体も得たいと、そう考えたことがないわけではない。
愛しいからこそ欲し、愛しいからこそ制する。
得たいのは、彼女のすべて。
「……だから今は、まだ気付かないでいてください」
そう言いながら彼女を惑わせるのは、自分の狡さ。
気づいて欲しくない。
けれども……気づいて欲しい。
欲してほしい。
自分が彼女を求めるように、彼女に自分を求めて欲しい。
そう望む、浅ましき心ゆえ。
「貴女を愛してます。フェリチータ」
手袋越しの冷たい金属の感触に微笑みながら、彼女が立ち去った空間に一人呟くと、ルカは愛の蹴りで痛む脇腹をさすりながら、部屋へと戻っていった。