マフラー

ルカフェリ22

久しぶりの二人揃っての休日。
ルカは柔らかな顔で傍らに座るフェリチータを見守っていた。
彼女の手にあるのは、編み棒と白い毛糸。
それらを使い、真剣な表情で編み物に奮闘していた。

「あ、お嬢様。ちょっと待ってください」
「ルカ?」
「――ああ、やっぱり。1つ目が飛んでます。今、直しますね」
言うや手早く編み棒を動かすルカに、フェリチータはふぅと吐息をこぼした。

「お嬢様? 疲れましたか?」
「ううん。やっぱりルカは上手だなって思って」

編み始めて一時間あまり。
フェリチータのマフラーはまだまだその形を成していないというのに、ルカの編んだそれは複雑な模様まで入っているのに、ほとんど編み終わっていた。

「編み物は慣れです。お嬢様は手際がいいですから、すぐに覚えられますよ」

「そうかな?」

「はい。少し休憩しましょう。今、お茶の用意をしますね」

立ち上がって部屋を出ていったルカに、フェリチータは手元のマフラーと、ルカの編みかけのそれを比べてみる。
目が不揃いのフェリチータのマフラーと、彼女のものより細い毛糸で綺麗に編まれたマフラーは、同じ素材でできているとは思えない出来栄えで、再び吐息がこぼれた。

昨年は手編みの手袋をルカからもらったフェリチータ。
だから今年はルカにフェリチータも編んで贈ろうと思ったのだ。
けれども編み物はしたことがなく、初心者がいきなり手袋は難易度が高いと、マフラーを編むことになったのだけれど、意外に集中力と根気のいる作業に前途多難という言葉が浮かんできた。

「ルカはすごいな……」

ルカが編んでいる時は、なんでもないようにリズムよく編み棒が動いていた。
だからこんなにも大変な作業なのだと思っていなかった。
綺麗な生地からお姫様のようなドレスを作り、様々な食材から美味しい料理を作りだす。
それらの作業は、三人で暮らしていた頃に身に着けたもので、フェリチータは改めてルカに感謝の念を抱いた。
頑張ろう、そう決意を新たにすると、ノックの後にワゴンを押しながらルカが戻ってきた。

「お待たせしました。今日のドルチェはパンドーロです」

粉砂糖がまぶされたケーキは、パネットーネ同様、クリスマスによく食べられる冬の定番お菓子で、フェリチータも大好きだった。
綺麗に縦に切り分けたパンドーロをお皿にのせると、あたたかな紅茶と共にテーブルに並べられる。
こくんと小さく鳴った喉にほんのり頬を染めると、いただきますと手に取った。

「美味しい」

「お嬢様は小さな頃からパンドーロがお好きでしたよね」

「うん。でもルカが作るお菓子はみんな美味しいから好き」

「ありがとうございます。お嬢様に美味しそうに食べていただけて、私も幸せです」

「はい」

「お、お嬢様?」

「あーん」

口元にパンドーロを差し出せば、顔を赤らめながらも口を開けてくれるルカ。
一口食んだその姿に、とくんと胸が高鳴る。

「美味しいです。……お嬢様?」
「……ッ、なんでもない」

子どもの頃の気持ちがよみがえって、思わず差し出してしまったパンドーロだが、それを食む姿に視線が吸い寄せられて――ふと、思い出してしまったのだ。
ルカと交わしたキスを。
あの頃と同じようで違う、ルカへの想い。
パーパやマンマに向けるような家族への愛情から恋人へ。
それはあたたかくて、でも恥ずかしさもあって、フェリチータは時々どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。

「お茶を飲み終わったら、続きをやりましょう。このペースなら、半分は編めると思います」
「うん」

普段通りの会話に動揺を紅茶で流し込むと、意識を傍らのマフラーへ移す。
編みあがったら交換しようと、ルカと約束して編み始めたマフラー。
店先に並ぶ品と遜色ないルカのものとは比べようもないけれど、それでも想いはたくさんこめて。 愛する人のマフラーを編むために、フェリチータは再び編み棒を手に取った。
Index Menu ←Back Next→