手袋一枚の壁

ルカフェリ21

「ねえ、ルカが手袋をするようになったのはいつから?」

「手袋、ですか?」

「うん」

「そうですね……お嬢様が10歳になられたぐらいからでしょうか」

幼い記憶をたどると、ある時期まではネクタイは締めていたものの手袋はしていなかったルカ。 いつ頃からか、その手を布で覆うようになっていた。

「どうして手袋をするようになったの?」

「特に理由はありませんよ。ただの嗜みです」

「嗜み?」

「はい。お嬢様の従者たるもの、身だしなみもきちんとしなければいけませんからね」

「手袋がなくてもルカはいつでもきちんとしてたと思うけど……」

帽子にリボンタイ。
スーツには皺ひとつなく……という完璧な装いのルカ。
けれども以前のスーツにネクタイといった装いだって、ノヴァのようにきちんとしていたのだ。
納得がいかないと眉間にしわを寄せる彼女に、ルカはそっと苦笑をこぼした。

ルカがフェリチータと暮らすようになったのは16歳の頃。
それまでは幼馴染のパーチェやデビトのような少年としか接したことがなかったために、13も年下の少女に戸惑うことも多かった。
絵本の読み聞かせ、花飾り、おままごと。
女の子ならではの遊びは、体力を使い切る男の子の遊び方とは異なるもの。
それでも二人だけの世界は周りから遮断された世界で、ただ彼女を見つめ、その顔に笑顔が宿っていく様を見守ることはルカに幸福を与えていた。

けれども、彼女はパーパから託された大切な存在であり、ルカの主。
自分を兄のように慕う可愛らしい少女への庇護欲が、淡い想いへと変化していくのを無意識に恐れたルカは、フェリチータとの間に隔たりを作った。
そうして淡い想いに蓋をして、ずっと気づかないふりを続けてきた。
自分自身にさえ想いを偽って。けれど。

「私はない方が好き。こうしてルカのぬくもりを感じられるもの」
「フェリチータ……」

手袋を外した掌に触れて。
愛しげに自分の頬を擦り寄せる少女が愛しくて、身を屈めて柔らかな唇にキスをする。
フェリチータと自分とを隔てていた、主従というかつての『壁』はもうない。
こうして手袋を外して彼女に触れることさえ叶うのだから。
愛しげに髪を梳けばうっとりと閉じた瞳に導かれて。 共に、真っ白なシーツに沈んだ。
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