暖かな時間

ルカフェリ14

ふわりと広がる黒のスカートにマント。
頭には大きくて、尖った帽子。
そして手にはホウキと、小さな魔女に扮したフェリチータは上機嫌でくるりと一回りしてどう? と見上げれば、そこにはフェリチータ以上に嬉しそうなルカの姿。

「とっても可愛らしいです!」

ダンテからハロウィンの話を聞いたフェリチータは、自分もやってみたいとルカに訴え、用意してもらったのがルカ特製の魔女の衣装だった。

「帽子が少し大きかったですね」
「ううん。これがいい」
「お嬢様に気に入って頂けたのなら良かったです」

ウキウキ、そんな擬態語が浮かぶフェリチータの様子に微笑むと、小さな魔女はホウキをつきつけながらお決まりの文句を彼に告げた。

「Dolcetto o Scherzetto!」
「はい、どうぞ」

用意していた籠からお菓子を差し出すと、ふわりとほころぶ少女の顔。
お菓子かいたずらか?
そんな問いかけをして、行く先々でお菓子をねだる子どもの姿を楽しむ今のハロウィン。
レガーロでもこの時期になるとハロウィンのグッズや食べ物などが街に溢れ、華やかな賑わいを見せていた。
ありがとう、とお礼を告げて駆けていく後ろ姿に、もっと早く教えてあげればよかったと思いながら見送った。

タロッコの力によって3歳以前の記憶を失ったフェリチータは、新たに一から思い出を積み重ねることを余儀なくされた。
それはモンドやスミレにとって大変痛ましい出来事であったけれど、それでも少しずつ言葉を覚え、話し、笑顔を向けてくれる姿に、共に暮らすルカは喜びを感じていた。
フェリチータが笑顔を向けてくれる度に、自分の中で満たされていく想い。
自分の生い立ちを知った時からずっと燻り、期待を裏切られ傷ついてきたルカにとって、フェリチータは主であり、大切な家族であった。


「ルカ」

呼びかけに振り返ると、ルカが渡したお菓子以外も手にしていて、スミレが愛らしい問いかけに答えてくれたことが伺い知れた。

「たくさんお菓子が集まりましたね。今、入れるものを用意しますね」
「ううん。ルカ」
「はい?」
「ルカも聞いて」
「え?」
「ルカも私に聞いて」
フェリチータの言葉に一瞬目を丸くしたルカは、身を屈めると視線を合わせて微笑んだ。

「Dolcetto o Scherzetto?」
問いかければにっこり笑顔に差し出されるお菓子。

「一緒に食べよう?」
「……! はい!」
独り占めするのではなく一緒に……そのフェリチータの優しさが嬉しくて頬が緩む。

「では美味しいお茶を淹れましょう。もちろんスミレ様の分も」
「うん!」

差し出せば握り返される手。
小さな手のぬくもりが愛しくて、ルカは優しく手を繋ぐ。
その日、注がれる暖かな時間を噛みしめながら、小さな家で三人だけのハロウィンを楽しんだ。



「今日のドルチェはカスタニャッチョにしてみました」
ルカの用意してくれたお茶とドルチェに、フェリチータは最近華やかになってきた町の様子を思い出した。

「もうそんな時期なんだね」
「はい」

昨年まではルカとスミレ、三人だけで過ごしていたハロウィン。
でもアルカナ・ファミリアの一員となったフェリチータがもう、あの家でハロウィンを楽しむことはなくなった。

「今年はお嬢様と館で過ごす初めてのハロウィンということで、パーパもはりきっていましたよ」
「もう……」

娘を溺愛しているモンドは、ファミリー総出のイベントにしてしまうため、きっとまた賑やかなものになるのだろうと、苦笑しつつも喜んでいる自分をフェリチータは感じていた。

「今年も魔女の衣装にしましょうか?」
「……そうだね」

初めて行ったハロウィンで着た、ルカ特製の魔女の衣装。
それは今でもフェリチータにとって大切な宝物だった。

「それでは張り切って作りますね!」
「いつもの服でいいんじゃない?」
どうせ全身黒なのだから、と告げれば、とんでもないです! と首を振るルカ。

「早速今度フェデリカドレスに行かなければいけませんね。ああ、お菓子もたくさん用意しなくてはいけません」

「どうして?」

「ハロウィンにかこつけて不埒な考えを抱く輩からお嬢様をお守りするためです!」

「?」

ファミリー全員に愛されているフェリチータ。
そんな彼女と話したいと思っているものは多く、ハロウィンにかこつけ近寄ってくる姿は容易に想像できた。

「ハロウィンの時は絶対デビトとパーチェには近づいてはいけませんよ!」
食欲魔神と色欲魔神の幼馴染二人を思い浮かべて、断固お嬢様には触れさせないと誓うルカ。

「ルカは?」
「はい?」
「Dolcetto o Scherzetto?」
悪戯めいた瞳で問いかけるフェリチータに、一瞬目を丸くするも答えはもちろん。

「Dolcetto。誰よりも甘い貴女を」
テーブルに手をつくと、そっと身を屈めて甘い唇を啄ばんだ。
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