「お嬢様、寒くはありませんか?」
「うん、大丈夫」
外に出る前に十分着こまされたフェリチータは、それでも心配するルカを呆れたように見ると、空を見上げた。
『お嬢様、知っていますか? 明日は流星群が見られるんです』
そう教えてもらってからずっと、フェリチータは今夜星を見るのが楽しみだった。
「星に何を願うんですか?」
「ひみつ」
幼い頃、同じようにルカと一緒に星を見上げていた時、必死になって流れ星に願い事をしていたのを覚えているのだろう。
誰よりもずっと傍にいてくれた恋人には何でもお見通しで、フェリチータは頬を赤らめながら顔を背けた。
流れ星が流れている時、強く願えばその願いは叶う――そう、ルカに教えられてから、夜空を見上げるたびに流れ星を探すようになった。
それはいつも一緒にいられない父ともっと一緒にいられますように、という切ない願い。
けれども今、星に願うのは――。
「……流れ星見えないね」
「そうですね。昼はよく晴れていたのですが、雲が広がってきてしまいましたね」
いつもは宝石を散りばめたように夜空を彩っているというのに、今宵は流れ星どころか星さえ見えない。
それが悲しくて、フェリチータは見上げていた視線を下に落とした。
「お嬢様、どうぞ。ハーブティーです」
「ありがとう、ルカ」
「……すみません。がっかりさせてしまいましたね」
フェリチータを気遣い、温かな飲み物を用意してくれていたルカは、申し訳なさそうに顔を曇らせた。
「ううん。空が曇っているのはルカのせいじゃないもの」
「雲もきれないようですし、部屋に戻りましょうか? 身体を冷やして風邪を召してしまっては大変です」
「……もう少しだけいてもいい?」
「では5分だけ……」
「ありがとう」
感謝を告げると返された柔らかな微笑に、とくんと胸が小さく高鳴る。
今、流れ星が流れたら。
フェリチータが願いたいことは――。
「……見えませんでしたね」
「……うん」
結局10分程夜空を見上げていたが雲がきれる様子はなく、フェリチータは落胆しながら広げていたシートの上から身を起こした。
「……くしゅん!」
「! お嬢様、大丈夫ですか?」
こぼれたくしゃみに、ルカが顔色を変えた。
「ああ、やはり身体を冷やしてしまいましたね。さ、部屋に戻りましょう。温かなお茶を用意します」
「お茶より……」
慌ててシートを片づけるルカを見つめると、その背中にぎゅっと抱きつく。
「お、お嬢様っ?」
「フェリチータ」
「……フェリチータ。どうしたのですか?」
「寒いからルカで温まってるの」
それはただ抱きつくための口実。
するとそっと腕を外されて、向きを変えたルカの胸に抱き寄せられた。
「では……こうすればもっと温かいですか?」
「……うん」
包み込むぬくもりが気持ちよくて、うっとりと目をつむる。
誰よりも安心するそのぬくもりは、今はちょっとだけ鼓動を早めるけれど。
それでも、こうしているのはとても幸せだから。
「今日はね、本当は『ずっとルカと一緒にいられますように』ってお願いするつもりだったの」
「それでしたら流れ星に願わなくとも大丈夫ですよ。私はフェリチータの傍にずっといます。決して離れないと誓います」
耳元の囁きに誘われるように顔をあげると、優しいキスが唇に降った。