Stigmata

ルカフェリ12

「ルカのスティグマータって口だったよね」
「はい。正確には口の中、舌の上にあります」
「見たいな」
「え? スティグマータを、ですか?」
「うん」

いつものように就寝前の一時、フェリチータとお茶を楽しんでいたルカは、思いがけないお願いに目を瞬いた。

「――いいですよ。お嬢様が見せてくれるなら」
「……え?」
「……って嘘です! 冗談ですからそんな目で見ないでくださいっ!」

フェリチータのスティグマータは、背中とデコルテにある。
それを見たいのかと思いっきり不審げに半眼で見つめるフェリチータに慌てて手を振ると、彼女は考える仕草を見せた。

「……私が見せたらルカも見せてくれるの?」
「ですから、さっきのは冗談です!」
「ルカはスティグマータを見せるのが嫌なの? どうして?」
「……だって舌、ですよ? 舌を出すなんて品がないじゃないですか」

じっと口元を見つめるフェリチータに、ルカは赤らむ顔を隠すように俯いた。
と、フェリチータは立ち上がると、おもむろにスーツの上着を脱ぎだした。

「お、お嬢様!? なにをなさっているんですか……っ?」

「……約束」

「え?」

「私が見せたら……ルカも見せてくれるんでしょう?」

「ですから、それは冗談だと……」

「だめ」

脱いだ上着を傍らのベッドに置いて、シャツのボタンを外し背の半分を露わにしたフェリチータにルカは言葉を失った。
白く滑らかな肌に刻まれた『運命の輪』。
それは『恋人たち』と共に宿る、フェリチータのもう一つのスティグマータ。
ルカがそれを目にするのは三度目だった。
一度目は、フェリチータが記憶を失った13年前。
二度目は、モンドを救おうと力を暴走させた時。
けれどもそれらは緊急を要する時だったために、こうしてじっくり見つめたことはなかった。

「私は見せたんだからルカも……、っ!」

シャツを肌け、背を露わにしていたフェリチータは触れた感触にびくりと震えた。
間違いでなければ、今スティグマータに触れているのは……ルカの舌。

「……ルカ……っ」

「見せてほしいと言ったのは貴女ですよ? フェリチータ」

「これじゃ……見えない……っ」

「では『恋人たち』のスティグマータも見せてくれますか?」

「…………っ」

『恋人たち』のスティグマータはデコルテ……胸元。
それはさすがに恥ずかしくて、フェリチータは胸元のシャツをぎゅっと握りしめた。

「フェリチータ?」
「……っ、ルカのエッチ……っ」
「等価交換の原則、です。それに、これはお嬢様が望んだことですよね?」
「…………っ」

耳元での囁きはわずかにからかいの色を含んでいて。
それがなんだか悔しくて、フェリチータは振り向くのと同時にルカの顔を引き寄せた。

「……っ、見えた?」
「お、お嬢様。頭を抱きかかえられては見えませんよ」
「見える!」

羞恥を隠すように少し癖のある髪の毛に指先を埋めると、苦笑する気配がして。
唇が肌にキスを落とす。

「………っ!」
「私のスティグマータが見たいのでしたよね? どうぞ」
デコルテを撫でる舌の感触に、けれども視線を向けることなどできるはずもない。

「フェリチータ?」
「……ルカの意地悪……っ」
くすりと微笑むルカに唇を尖らせると、甘い恋人の一時に身を委ねた。
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