「七夕?」
怪訝そうに眉をひそめるジョーリィに頷くと、フェリチータは幼い頃にマンマに教えてもらったジャッポネの夏のイベントを思い出す。
笹に五色の短冊を飾り、芸事の上達を願うというそのイベントを、あの小さな家でルカと3人で毎年行っていたのだ。
「モンドが毎年笹を用意させていた理由がこれか……」
妻と娘のために竹をレガーロ島に植林したモンドは、この時期になると毎年フェリチータが過ごしていた家に笹を届けさせていた。
「はい」
「……なんだ」
「短冊。ジョーリィも書こう?」
無邪気に手渡された短冊に眉をひそめるも、フェリチータは当然のように願いごとを紙に記していく。
「ダンスがもっと上手になりますように……とは。クックックッ……」
アルカナ・ファミリアのトップ・パーパの娘として改まった場に呼ばれることも多いフェリチータ。
そう言った場でダンスが行われることも少なくなく、目下練習中であった。
「……っジョーリィはなんて書いたの?」
恥ずかしそうに短冊を隠したフェリチータは、ジョーリィに手渡した短冊を覗き込んだ。
「何も書いてない」
「お子様と違って星に願いなど叶えてもらう必要はないからな」
「ジョーリィは願いごとはないの?」
「ないな」
叶えたいものは自分の手で叶える。
他者に……特に星などという不確定なものをあてにするなどもってのほかだと、煙草の煙をくゆらせ口元を歪める。
ジョーリィの返答に少し考えこんでいたフェリチータは、来て、と彼を外へと連れ出した。
「なんだ?」
「ダンスの相手をして」
「唐突だな」
「星に願うだけじゃなくて、努力も必要でしょ?」
そう言って笑うフェリチータに、ジョーリィはわずかに目を見開いた。
与えられるものを享受するだけでなく、自ら切り拓いていく力。
それはモンドやスミレと同様の眩い輝き。
「では、足を踏まれないよう気をつけよう」
フェリチータの手を取り腰に腕を回すと、カアッと赤みを帯びた頬に微笑んでステップを踏む。
風に揺れる五色の短冊。
そこにこめられた少女の願いをかなえるべく、彼女を腕に抱いて踊り続けた。
【おまけ】
「ねえ、お姉ちゃん。ぼくもこの短冊書いてもいい?」
「うん」
短冊を手にフェリチータを見上げたエルモは、嬉しそうに赤い短冊を選ぶと、そこに文字を書き記していく。
幼い文字で綴られていたのは『ずっとお姉ちゃんと一緒にいられますように』。
その内容に、ジョーリィの眉がピクリと歪む。
「……エルモ。七夕で叶えられる願いごとは、芸事に関することのみだ」
「そうなの? ぼく、ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいのに……」
「大丈夫だよ。私とエルモはずっと一緒だよ」
「本当? お姉ちゃん、本当にずっとぼくと一緒にいてくれる?」
「うん」
無邪気に交わされる約束に、苛立つ心。
「エルモ。短冊をかけてくるといい」
「うん!」
ジョーリィに促されて、嬉しそうに外に駆けていくエルモ。
その姿が見えなくなると、おもむろにフェリチータの腕を引く。
「ジョーリィ?」
「私の花嫁はずいぶんと気が多いらしい」
「そんなこと……」
否定を口にする前に縮められた距離に、フェリチータがその続きを口にすることは叶わなかった。