ジョーリィの淹れてくれたコーヒーを見て、フェリチータは眉をひそめた。
それはコーヒーの激甘ぶりへの反応ではなく、その外見。
彼が淹れてくれたのはカップではなく、研究室に備え付けられているビーカーだった。
「お上品なお嬢様はお気に召さないかな? 生憎ここにはカップは用意していなくてね。不満ならば忠実な従者にでも頼むといい」
我関せずとばかりにビーカーのコーヒーを飲むジョーリィに、しばし逡巡した後にフェリチータも口をつけた。
味は悪くない。
かなり甘くはあるが、フェリチータの分は初めて淹れてくれた時より幾分砂糖を控えてくれているようだ。
しかし如何せん、その入れ物がティータイムを台無しにしていた。
「ジョーリィの好きな色は何?」
「……唐突だな。私の好きな色など聞いてどうする?」
「コーヒーカップを買うから、好みを聞いておこうと思って」
ないのならば自分で用意すればいい。
実にフェリチータらしい直情的な考えに、ジョーリィはクックッと喉を鳴らした。
「わざわざそのようなものを買わなくとも、君がここで飲む必要はないだろう。私はこれで十分なのだからな」
「私はジョーリィと一緒にコーヒーを飲みたい。でもビーカーは嫌だから用意する」
突き放した物言いにも、物おじせずに自分の主張を通すのはモンド譲りなのだろう。
いや、スミレにも似ているかと、旧知の二人を浮かべ微笑むと、席を立って扉に向かう。
「ジョーリィ?」
「何をしている。コーヒーカップを買いたいのだろう? 私の好みをフェルに理解させるよりも、一緒に見る方が効率的だ」
「うん」
ジョーリィらしい誘い文句に笑顔を浮かべると、フェリチータは急いでビーカーに残ったコーヒーを飲み干し立ち上がる。
「クックッ……律儀なお嬢様だな」
「せっかくジョーリィが淹れてくれたんだもの。それに、見た目はともかく味は美味しいから」
「ではこれから君のその欲求を満たすことにしよう。おいで」
促されてその手をとると、フェリチータはジョーリィと街へとくりだす。
こうして錬金部屋には、揃いのカップが二つ置かれるようになった。