「今宵の罪人はあなたです『ラ・ルーナ』」
本日の懺悔で罪人と確定したジョーリィは、葉巻をくゆらせスミレを見た。
「いいだろう……断罪は何だ」
「あなたの断罪はこれよ」
「……ジャッポネの踏み絵? クッ……私が同じ轍を踏むとでも……?」
以前ダンテと共にこの罰を受けた時は、モンドの絵を踏むのにジョーリィはかなり躊躇っていた。
「そうかしら? ふふ」
意味深なスミレの笑みに眉をしかめながらも、イル・マットから順に以前と変わらずわずかな躊躇いもなく、実の息子であるはずの『ラ・テンペランツァ』さえいびるように踏んでいく。
モンドの絵はさすがに動揺せずに、とはいかなかったがそれでもこれはただの絵だと自分に強く暗示をかけて踏んだ。
そして最後に残ったのは……。
「……っ! これは……お嬢様の絵か……」
足元でにこやかに微笑むフェリチータ。
前回ならば躊躇うことなく踏もうとして、逆にスミレに怒られたのだが。
「……ッ………!」
踏み出そうとするが、足が縫い付けられたかのように動かない。
「さぁさぁ『ラ・ルーナ』、どうするの?」
「これはただの絵だ……ただの絵だ……」
言い聞かせるように何度も何度も呟いて。
絵を見ないように足を踏み出す。
そう、ここでスミレがまた乱入を――。
「……ッ! 誰だ……。ッ!? お嬢様?」
突然どしんと後ろから体当たりされて苛ただしげに振り返ると、そこにいたのは今まさに踏もうとしていた張本人。
「うぐっ!!」
ポカポカポカポカッ!
可愛らしい腕から何度も拳が振り下ろされる。
「そうよね。信頼している相手、愛している相手の絵は踏めないはずよね?」
「こ、これはこういう断罪のはずだろう?」
「『ラ・ルーナ』以前あなたは『イル・モォンド』の絵を踏むまでに五分の時間がかかったわ。けれども『リ・アマンティ』には三分だった」
「グッ……」
「まだ『ラ・ルーナ』はあなたよりも『イル・モォンド』の方が大切みたい。そんな男に大切な娘はあげられないわよね? さあ、いきましょう?」
笑みを浮かべフェリチータを促すスミレに、素直についていく娘。
今宵も親の許しを得られなかったジョーリィだった。