自分の問いにすべて肯定の答えを返す……それがジョーリィの求めた礼。
自分が好きか?
どんなことをしても愛してくれるか?
傷つけても、他の誰かを悲しませても、自分だけを選び続けてくれるか?
それらにすべて肯定を返すと、求められた誓いの口づけ。
それにはさすがにすぐに肯定を返すことはできなくて戸惑っていると、ジョーリィ自ら触れた唇。
「いずれはすべてを俺の物にする予定だ」
その気がないなら近寄るな、そう告げるジョーリィに、けれども同意を示すことは出来なかった。
今、ジョーリィのことが好きかと聞かれたら、正直頷くことは出来ない。
嫌いではない。
けれどもそれは、他のファミリーに対する想いと同じ。
自分だけを……そう求めるジョーリィの求めに応じられるものでなければ肯定は出来ない。
けれども、ジョーリィは本当に自分を好きなのか?
今までジョーリィにとりわけ求められた覚えはなかった。
パーパを救ったことは感謝されているだろう。
ジョーリィにとってモンドは【世界】……まさしくすべてだから。
では自分に対してジョーリィが求めているものは何なのだろう?
ドンナとしての地位?
トップに興味はないと以前聞いた。
では、すべてのタロッコをその身に宿したフェリチータへの研究者としての興味?
それならありうるかもしれないと考えて、けれども先の行動が研究するための行動だとも思えずに、思考がふりだしに戻る。
「はぁ……」
わからない。恋をしたことのないフェリチータには、そもそも自分の想いさえわからない。
『恋は二人で育むもの。どちらか一方の想いだけでは成り立たない。ゆっくり、心の中に芽生える想いを育てていけばいい。その芽はもう、あなたの中にあるはずだから』
そう微笑みながら告げたネーヴェ。
『みんながあなたの答えを待ってることは、忘れないであげてね』
同じく微笑むスミレに頷いて、自分の気持ちに向き合うことを約束した。
「恋は一方の想いだけでは成り立たない……」
それは【リ・アマンティ】にも言われた言葉。
ファミリーに対する想いは恋とは違うもの。
それでも強く大切に思う気持ちに、【リ・アマンティ】は幾度となく協力してくれた。
みんなが自分を大切に想ってくれているのはわかっている。
その想いの中には【恋心】と呼ばれるものもあるのだろう。
ただ、フェリチータだけがわからない。
「ネーヴェは芽はもう私の中にあるって言っていたけど……」
恋の芽。それは誰に対しての芽なのだろう?
「眉間にしわを寄せて何を考えているんだ、ドンナ」
「……ジョーリィ」
「私でよければ相談に乗ってもいい。解決できる保証はしないが」
以前と同じやり取りに、知らずため息がこぼれる。
「……ジョーリィが何を考えてるのかわからない」
「クッ、お嬢様はそんなに私に興味があるのか。言ったはずだ、お嬢様が本当に知りたいと願うなら教えてあげよう、と」
「2人きりなら、だよね」
「クックックッ……そうだな。君は知りたいと願うのか?」
「……うん」
「ならば私の部屋に来るといい。ここは邪魔が入るからな」
ジョーリィの誘いに応じて彼の部屋を訪れると、椅子を指し示された。
「そこに座るといい。カッフェぐらいはご馳走しよう」
「ありがとう」
かちゃ、かちゃ、と陶器の音にお礼を述べると、程なくして暖かなカップが手渡された。
口をつけると、以前もらった時よりは幾分抑えられた糖分量。
「君のは特別配合にした。前のはお気に召さなかったようだからな」
「別に嫌だったわけじゃない。少し甘すぎただけ。でも、ありがとう」
思いがけない気遣いに微笑むと、彼特有の笑みと共にカップが傾く。
「それで? お嬢様は私の何を知りたい?」
「……ジョーリィは私のことが好き?」
「これはこれは……ずいぶんと直球なことだな」
「本当に知りたいと願ったら教えてくれるんでしょう?」
「クックッ……ドンナは恋の手順を知らないと見える」
「……っ」
嘲る響きに口をつぐむと、ジョーリィがタバコの煙をくゆらせながらフェリチータを見る。
「好きだ、と答えたら君はどうするつもりだ?」
「質問に質問で返さないで」
「フッ……私は答えたはずだが? 自分には問いかけるなとは、ずいぶん上からな言葉だな」
「………っ」
言葉遊びのようなジョーリィとのやり取りに、けれどもそこに含まれる真実を掘り起こそうと、フェリチータは冷静になろうと努める。
「それがジョーリィの答えなら、私のことを好き……それであってるのね?」
「もちろん。我らがドンナを愛しているよ」
「……やっぱりわからない」
ドンナとしてのフェリチータを愛している、ともとれる言葉に、フェリチータはため息をついた。
「君は私にどんな言葉を期待している? 愛を囁いて欲しいのか?」
「……願ってもらいたいものじゃない」
「クックックッ……我が儘なお嬢様だ」
「……っ」
いくら話してもらちが明かない、そう感じフェリチータは空のカップを置くと立ち上がった。
「どこへ行くつもりだ?」
「……まだジョーリィと話すのは早すぎたみたい。自分の部屋に戻る。カッフェ、ご馳走様」
そうして身を翻そうとした瞬間、腕を引かれて。
ジョーリィの腕の中へと囚われる。
「クッ……せっかちなお嬢様だ」
「放して」
「嫌だ、と言ったら?」
「実力行使で放してもらう」
「クックッ……ドンナになってもそこは変わらないか」
「……っ、まだまだ自分が子どもだっていうことはわかった」
恋がどんなものかもわからない。
だからそれを教えて欲しい、なんて厚かましい願いだったのだろう。
そう結論づけるフェリチータに、ジョーリィはタバコの火を消すと、耳元に唇を寄せた。
「君は、俺のことが好きか?」
「えっ……?」
「どんなことをしても、俺を愛し続けてくれるか?」
「ジョーリィ?」
「例え、お嬢様を傷つけるとしても? 他の誰かを悲しませることになっても?」
「…………っ」
「俺は君の答えが欲しい。聞かせてくれないか?」
以前と同じ問い。
けれどもそこに込められた想いはあの時とは違うと、そう思えて、フェリチータは真剣に考える。
「……ジョーリィのことは好き。でも、それが愛なのかはわからない」
「だから私の想いを聞きたいと? クックッ……傲慢だな」
「……そうだね。ごめんなさい」
「ずいぶんと殊勝だな」
「相手の想いで自分の想いを決めようとしていたことがわかったから」
そう、ジョーリィが本気で自分を好きなら考える……それはジョーリィの言うとおりなんて傲慢な思いだろう。
恋は相手を恋うるもの。
好きで傍にいたいと、いて欲しいと恋う気持ち。
相手が好きだから自分も好きになる……そういうものではないのだから。
「私が私に聞かなきゃいけないことだったから。だから、ごめんなさい」
「クックッ……君は本当に面白い。だからこそ手に入れたいと思うのだろう」
「!!」
覆いかぶさった影。
触れる唇。重なるぬくもり。
キスをされたのだと、そう認識した時にはすでにジョーリィの身体は離れていた。
「次に私の元を訪れる時には答えが出ていることを願っているよ。愛しいドンナ」
タバコの煙をくゆらせるジョーリィに頷くと、フェリチータは彼の部屋を後にした。
ほのかにともった恋の芽に気づかずに。