ガラスの靴とお姫様

デビフェリ2

「………ん?」
よく晴れた清々しい、ここレガーロでは『レガーロ晴れ』と呼ばれるとある日。
アルカナ・デュエロを経て得た恋人とフィオーレ通りを肩を並べて歩いていると、ふとフェリチータが足を止めた。
視線の先にはガラスの靴。

「ガラスの靴、ねえ……そういえば、バンビーナは王子様の迎えを夢見るお姫様だったもんなァ?」
いつだかを思い出し唇をつりあげると、フェリチータがカッと頬を赤らめた。

「……おっと。別に馬鹿にしているわけじゃないぜ?」
すかさず飛んできた蹴りをかわすと、唇を尖らせそっぽを向く顔。
そういうところはまだまだ子供だなと内心思うが、再度蹴りが飛んでくるのは勘弁だと黙っていた。

男にしては乙女な面を持ち合わせている親友のおかげで、彼に育てられたフェリチータは一見クールな見た目に反し乙女チックな面を持ち合わせていた。
そう、童話の中の王子を夢見る少女の一面を。

「で? バンビーナはガラスの靴で王子様に迎えに来てもらいたいのか?」

「違う。ただ、ちょっと綺麗だと思って見てただけ」

ショーウィンドウに飾られたガラスの靴は、光を受けてキラキラと輝いていて。
まるで本当にシンデレラが忘れた魔法の靴のようだと、つい見惚れてしまった。

魔法使いに魔法をかけてもらい、舞踏会に出かけたシンデレラ。
彼女はそこで王子と出会い、恋に落ちた。
けれども身を飾る魔法の効き目は12時の鐘が鳴るまで。
シンデレラは王子の手を振り解き、城を後にした。 その手にガラスの靴を残して。

このお話を読み終えた後、ルカは微笑み「きっとお嬢様にも王子様が迎えに来てくれますよ」と言った。
あの頃は絵本の中の王子様に憧れて、その日の来るのを楽しみにしていた。
けれど今はもう、王子様を待とうとは思わない。
守られるのではなく、愛しい人を守れるような強い女に。
そう、マンマに教わったとおり、フェリチータも自分が愛した人を守りたいと思うから。


「で? バンビーナの王子様は迎えに来てくれたのか?」
「ううん」

揶揄する言葉に首を振ると、つれないね~とデビトが肩をすくめた。

「ま? 確かに王子様とはいえねぇよなァ」
「違う」
「あ?」

自分は王子様ではないと言われていると勘違いしているデビトに首を振ると、眼帯に隠れた瞳をまっすぐに見つめた。
タロッコの大きすぎる代償を支える義眼。
自分の意思でなく得た力にデビトがずっと苦しんでいたことをフェリチータは知っていた。

「私は自分で迎えに行くから」
「……ヒュ~♪ 勇ましいねェ。さすがはバンビーナだ」

一瞬目を見開くと楽しげに唇をつりあげたデビトに手を差し出して。
きょとんとフェリチータの行動を見守る彼の手をとる。

「バンビーナ?」
「だから……迎えに来たの」
「………っ」

話の流れで一連の行動の意味を悟ったのだろう、デビトの頬がわずかに染まった。

「デビト?」
「……っ、バンビーナは本当に驚かせてくれるぜ」
「……!!」

照れた己の表情を見せたくなくて腕の中へ抱き寄せると、わざと耳元で愛を囁き、フェリチータの動揺に自身のそれを隠した。

王子様が迎えに来ることを夢見た少女は、自分で広い世界を歩き愛する人を見つけた。
わがままで、けれども誰よりも寂しがり屋で優しい、自分だけの王子様を。
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