芽吹きのとき

パフェリ3

「みんながあなたの答えを待ってることは、忘れないであげてね」

そうスミレに告げられてからずっと、フェリチータは想いを寄せてくれる彼らのことを考えていた。
みんなが自分を大切に想ってくれていることはわかっている。
けれども自分はドンナで、ファミリーすべてを統べる者。

* *

「お嬢ー! こんなところでどうしたの?」
「ちょっと休憩してた」
「じゃあオレも。隣りに座ってもいい?」
「うん」
「へへー、お邪魔します!」

嬉しげにフェリチータの横に腰かけると、パーチェはカンノーロを手渡す。

「さっきの授業で作ったリコッタチーズを入れて、マーサに作ってもらったんだ」
「おいしそう。食べてもいい?」
「もちろん! 一緒に食べよう」
「うん」

顔を見合わせ微笑むと、それぞれ手にしたカンノーロを食べる。

「さっきのパンケーキも美味しかったけど、このカンノーロも美味しいよね」

「うん。自分たちで作ったチーズを食べるのが新鮮で面白い」

「へへ、お嬢に喜んでもらえてよかったよ」

アカデミアで何を教えるか悩んでいた時、フェリチータを見て思いついたのが、自分が食べる物はどういう経緯をたどって作られているのかを知る授業。
パーチェの授業は子ども達に大人気で、食べ物に対しての感謝を覚えると親達にも好評だった。

「お嬢はアカデミアの授業、面白い?」

「うん。みんな個性的で楽しくて、勉強するのが面白い」

「そっか。きっと島のみんなもお嬢と同じように感じているんだろうね」

「そうだと嬉しいな」

「きっとそうだよ。だってみんなの顔、きらっきら輝いてるもの」

学ぶことが楽しいと、喜んで館を訪れる島民たち。
そうやって自分の意思で学ぼうとすることこそがフェリチータが求めているもので、レガーロを学問の都市にするための大事な一歩でもあった。

「おれも、美味しいものを食べれて、お嬢の笑顔も見れて幸せだよ」

「ふふ、パーチェらしいね」

「だってみんなで美味しいものを食べて、それが勉強になって、お嬢も喜ぶ。こんなにいいことってないよね?」

「うん」

みんなが笑顔で楽しんでくれる。それはいつもパーチェが望んでいること。
そんな彼だから、周りにはいつも笑顔が溢れていた。

「これからもずっと、こうして隣りでお嬢の笑顔を見ていたいな」

「うん。私もパーチェと一緒にいたい」

「え? お嬢、それほんと?」

「うん」

「へへ、そしたら手、つないでもいい?」

「? うん」

パーチェのお願いに素直に手を差し出すとしっかりと握り返されて、幸せそうにパーチェが笑う。

「お嬢の手って柔らかいよね。あたたかくていいにおいがして……今、お嬢と手を繋いでるんだーって感じる」

「パーチェはしゃぎすぎ」

「うん、ごめん。でも嬉しくて、叫びたくて仕方ないんだ」

にこにこと、こぼれんばかりに笑うパーチェに、フェリチータもつい笑みがこぼれる。
繋いだ手があたたかくて。
傍にいる人の笑顔があたたかくて。
心がほわんとあたたかくなる。

「今度は何を作ろうか? お嬢、何か知りたいことある?」

嬉しそうに次の授業の案を尋ねるパーチェに、フェリチータは少し考えた後に『ラザニア』と呟くと、パーチェの笑顔がさらに大きくなった。

『その芽はもう、あなたの中にあるはずだから』
Index Menu ←Back Next→