「みんながあなたの答えを待ってることは、忘れないであげてね」
そうスミレに告げられてからずっと、フェリチータは想いを寄せてくれる彼らのことを考えていた。
みんなが自分を大切に想ってくれていることはわかっている。
けれども自分はドンナで、ファミリーすべてを統べる者。
* *
『レガーロの防衛を担うセリエ聖杯の幹部、ノヴァ。僕は生涯をかけて、このレガーロ島を……そして、ドンナであるお前を一生涯守り抜く』
『ノヴァ……』
『今はこれ以上言えない。だが、お前と並び立てるだけの覚悟ができた時、聞いてほしい言葉がある。それまで、待っていてくれるか?』
遠い昔に親同士が交わした約束と、新たに自分たちで交わした約束。
それを思い出すと、ほんわりと胸があたたかくなる。
物心ついた頃には婚約者として傍にいたノヴァ。
一つ年下の従弟だけど、しっかり者で優しくて、森で迷子になった時も不安で泣くフェリチータを励まし続けてくれた。
婚約者……将来の伴侶。
けれどもその意味をフェリチータが理解する前に、婚約はノヴァ自身の申し出によって破棄された。
それからのノヴァはフェリチータが館に移り住むようになってからも、他の仲間たちと同様に扱い、婚約者であったことなどみじんも感じさせない態度を向けていた。
だからフェリチータも同様に過去の約束はなかったものとして、同じファミリーの人間として接していた。
そうして接しているうちに変化していった想い。
昔は恋とも呼べない関係だった想いが、いつしか相手の姿を無意識に探し、その姿を見つけるとホッとするようになっていた。
だけどその変化に気付いた時に、フェリチータは一つの悩みを抱えた。
ノヴァにファミリーのみんなとは違う想いを抱いているのはフェリチータだけ。
ノヴァはフェリチータに対して特別な想いなどありはしない。
その事実に当たった時、胸が小さく痛んだ。
それが恋心なのだと気づいたのは最近。
けれどもフェリチータがドンナになったことで、二人を隔てるものはさらに大きくなって、抱いた想いを持て余していた。
「好きになっても仕方ないのに……」
そう、ノヴァが大切に想っているのは、フェリチータの両親であるモンドとスミレ。
フェリチータへ抱く想いは彼らの娘であるという、それだけのもの。
フェリチータが関わることで辛い過去を思い出してしまうのならば離れなければ。
ノヴァを想う故の悩みが、フェリチータの動きを封じていた。
そんな中、光明がさしたのは先日のノヴァの言葉。
フェリチータの一方的な想いであると思っていたものが違うのかもしれないと、彼の言葉はそう思わせた。
「私は……待ってるよ」
ノヴァがフェリチータに想いを告げたいと、そう思う時を待ち続ける。
そう決めて瞼を閉じると、ドンナの顔へと戻っていった。
『その芽はもう、あなたの中にあるはずだから』