The day of beginning

トーマ3

「…ん……」
ふと感じた視線に、重い瞼をゆっくり開く。

「……ん? 起きた?」
「……トーマ……?」
柔らかく微笑むトーマに、どうして彼が一緒に寝ているのだろうと、まだ覚めない頭でぼんやりと考える。

「お前、まだ寝ぼけてるでしょ?」
「……うん……そう、かも……」

うとり、うとりと、再度閉じかける瞼に苦笑する気配がして、そっと頭を撫でられた。
これはトーマの感触。
昔から変わらない、絶対の安心をくれる手のぬくもり。

「眠い?」
「……うん……もう少しだけいい?」
「いいよ。でも少しだけだぞ?」
「……ありがとう」

優しく髪を梳く手が気持ちよくて、ついつい甘えてしまう。
ぬくもりを求めるようにすり寄ると、トーマが慌てる気配が伝わってきた。

「おま……っ、それはまずいって……!」
「……? トーマ?」

どうしてそんなに慌てるの? と問おうとして。
触れた指先の感触に、急速に意識が覚醒していく。

「………!」

ぱちりと瞼を開けると、目の前にあるのはたくましい裸の胸。
そのことを認識した瞬間に固まった私に、トーマははぁとため息をつくと、おずおずと聞いてきた。

「……身体、辛いとこないか?」
「………っ!!」

問いかける言葉によみがえる昨夜の出来事。
一気に全身が真っ赤に染まり、きゅっと固く目をつむった。

「だ、だいじょう……ぶ」
「そっか」
何とか答えるとホッと小さく息を吐いて、トーマが私を抱きしめた。

「……お前っていいにおいするよね」
「そ、そう? シャンプーの香りだと思うけど……」

すん、とにおいを嗅ぐトーマに、ドキドキと胸が早鐘を打つ。
トーマと肌を合わせた朝はいつも緊張してしまう。
初めての時と変わらないぐらい恥ずかしくて……でも嬉しくて。
そっと視線をあげると、私を見つめていたトーマと目があった。

「……そんなに照れられると、俺も恥ずかしいんだけど」
「ご、ごめん……っ」
「いいよ。照れてるお前も可愛いから」
「…………っ」

愛しげに細められた琥珀の瞳。
小さい頃から大好きなトーマの瞳。

「……でも、そろそろ起きないとまずいかな」
「? 今日は大学早いの?」
「いや、そういうことじゃなくて……」

今日は私もトーマも午後からのはず。
そう思って見上げていると、ちゅっと額にキスが降り落ちて、そのまま唇が重なった。

「朝からそんな可愛い顔見せられたらたまらなくなるでしょ。ただでさえお互い、昨夜のままだって言うのに」
「…………っ」

そう、服を着ていないのはトーマだけじゃない。
私も昨夜肌を合わせたまま、何も纏っていないのだから。

「……だから、そういう顔するんじゃないの」
「ん……ふ……ぅ……っ」

再度のキスは深くて舌を絡め取られ。
目覚めた意識は、あっという間に蕩けさせられて。

「ごめん……止められない」
いい? と問われて、その背に腕を伸ばして了承の意を伝えた。
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