ご飯にお味噌汁、焼き魚に和え物。
イッキさんの好きな和食の朝食を作り終えた私は、彼を起こすべく部屋のドアをノックした。
「イッキさん、起きてください。朝ご飯ができました」
ドア越しに声をかけるも返事はない。
イッキさんは朝が弱い。
だからこんなことは日常茶飯事で、私は入りますよと断ってから、そっとドアを押し開けた。
「イッキさん? ………!」
ベッドの傍に歩いて行った瞬間に、顔が一気に赤らむ。
無防備に投げ出された左腕。
シーツの合間から覗く滑らかな肌。
すやすやと眠っているイッキさんは、パジャマを着ていなかった。
イッキさんの仕事は忙しく、日をまたぐことも珍しくない。
日中は私も大学にバイトと、じっくり話す時間がないので、せめて夜ぐらいは疲れたイッキさんを出迎えたいと思っているのだけれど、昨日は冥土の羊のフェアで忙しく、眠気に負けて「先に寝てていいよ」というイッキさんのメールに甘えてしまったのだ。
陽の光に照らされた整った寝顔。
まるで彫刻のように美しい姿に、思わず見惚れてしまう。
目の力なんかなくてもイッキさんは十分魅力的で、私は目のやり場に困って少し視線をそらせて声をかけた。
「……っ、イッキさん起きてください。ご飯冷めちゃいます」
「…ん~……もう朝……?」
「はい。昨夜も遅かったんですか?」
「うん……1時だったかな……あんまり覚えてない」
「毎日遅くまでお疲れ様です。でも、もう起きないと寝坊しちゃいますよ」
「ん……」
気だるげに開いた瞼から覗く蒼眼が、ベッドの傍らに立つ私の姿をとらえる。
「おはよう。今日も君は可愛いね」
「………っ、早く着替えてください。私はご飯よそってきますね」
「待って」
半裸を晒して見つめられることに耐えられなくて逃げようとするも、イッキさんに止められて困ったように振り返った。
「な、なんですか?」
「こっち来て」
手招きされたら嫌とも言えず、ベッドの傍らに戻るとにこりと微笑まれた。
「おはようのキスは?」
「………っ、着替えたらします」
「? ……ああ、昨日脱いでそのまま寝ちゃったんだ。もしかして君の頬が赤いのは、僕が服を着ていないせい?」
真っ赤な顔で俯くと、イッキさんは半身を起して私を引き寄せた。
「可愛い。食べちゃってもいい?」
「だ、だめです! 仕事に遅れちゃいます!」
「んー仕事ぐらい……って言いたいけど、みんなに迷惑かけちゃうからね。仕方ないな」
耳元に寄せられた唇から紡ぐ声に、蕩けそうになる意識を必死に繋ぎ止めると、肩を抱き寄せていた腕がするりと離れていった。
「じゃあ続きは今夜だね」
「………っ」
「だめかな?」
「……だめじゃない、です」
そんな顔で求められたら嫌だなんて言えるわけがない。
だって、抱き寄せる腕が離れていったことを寂しいと思ってしまっているのだから。
「ありがと。じゃあ、今日は早く帰ってこなくちゃね」
「イッキさん! 服、服着てください!」
「ああ、ごめんごめん。すぐ着替えるから、ご飯支度お願いするね」
無頓着に立ちあがったイッキさんに慌てて背を向けると、逃げるように部屋を飛び出す。
その日一日、イッキさんのことを思い出しては顔を赤らめ、サワ達にからかわれたのはイッキさんには秘密。