The day of beginning

シン

「おはよ」
頬づえをついて見つめるシンに、恥ずかしくて目を合わせられずに俯くと、ツンと一房髪をすくわれた。

「ここ、跳ねてる」
「え?」
「昨日、髪乾かさずに寝たから」
「…………っ」

シンの言葉に顔を真っ赤に染めると、ふっと柔らかく微笑まれる。
最近のシンは前よりずっと優しくなった。
もともと優しいのだけれど、人にも自分にも厳しいシンの態度はそっけなく、それがほんの少しだけ寂しいと思うこともあったから。

「なに? 顔、緩んでるけど」
「シンが優しいから嬉しいの」
「……っ、今日ぐらい優しくなきゃおかしいだろ」
「?」
「お前、昨夜のこと忘れてる?」

シンの指摘に、昨夜初めて肌を合わせたことを思い出し、バッと顔が赤く染まった。
そう言われてみれば、目の前のシンは何も着ていない。ということは……。

「……………!」
慌てて布団の中に逃げ込むと、くすくすと笑う声が聞こえた。

「顔、出しなよ」

「む、無理…」

「さっきまで普通に話してたくせに、いまさらだろ」

「それは……忘れてたというか……気づいていなかったから」

「お前のこと、抱きしめたい」

「…………っ」

直球でそんなふうに言われたら嫌だなんて言えるはずなくて。
おずおずと顔を出すと、布団ごとぎゅっと抱きしめられた。

「お前、反則だろ。朝からそんな可愛いことされたら、止まらなくなる」
「だって……」
「もう無理。今日、バイト遅番だったよな」

確認するように呟いて、降り落ちてきたキスは以前のように強引なものじゃなく、そっと触れるような優しいキスで。
包み込むシンの愛情を感じて、幸福感が満ち溢れてくる。

「シン、だいすき」
「………っ、だから……ああ、もう知らないから」
目尻をわずかに染めたシンの呟きに、自分から腕を伸ばして抱きしめた。
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