ホワイトデー

孟花2

「……孟徳さん? あの……」
「なに? 花ちゃん」

にこにこといつものように楽しげな孟徳と裏腹の花の戸惑った様子。
それは部屋いっぱいに置かれた品々が理由。
今朝届けられたそれらに驚いていると、ひょっこりと現れた孟徳は届いたんだね、とにこやかに微笑んだのだが、そうですねと微笑み返せるはずもなかった。
花には物の良しあしを見分ける力などありはしないが、以前孟徳から贈られた衣と遜色ない様を見れば、明らかに高価なものだと分かったからだ。

「これはどう? この間贈られたんだけど、花ちゃんに似合うと思うんだ。あ、この髪飾りもいいよね。あーでもこっちもいいかな」

にこにこ、にこにこ。
品を手にしては見立てる孟徳は本当に楽しそうで、花は困ったように眉を下げた。

「孟徳さん、この品々は何でしょうか」
「ああ、これは『ばれんたいんでー』のお返し。確か今日は『ほわいとでー』なんだよね?」

にっこり。
笑顔の孟徳の言葉に、花は1ヶ月前の出来事を思い返す。
確かに花はバレンタインデーに孟徳に贈り物をした。
その時にホワイトデーのことも話していた。
けれどもまさかこんなにもお返しの品が多いとは想像もしていなかったのである。

「ありがとうございます。でも、これは多すぎます」

「え~? これでも花ちゃんのお菓子にはかなわないと思うよ?」

「そんなこと……」

「あるよ。俺のことを思って作ってくれたお菓子に見合うものなんて、本当はないのかもしれないけどね」

本当に嬉しかったのだと、そう告げられたらむげにもできなくて、花は仕方なしにありがとうございますと頭を下げた。

「ねえ、花ちゃん。よかったら着て見せてほしいな」
「え? 今ですか?」
「うん」
「……わかりました」

花の了承を得てにこりと微笑んだ孟徳は、じゃあ向こうで待ってるねと部屋を出て行った。
入れ替わりにやってきた女官たちに着付けられ、普段結うことのない髪をいじられ、化粧までほどこされた花は、落ち着かない心地で孟徳のもとへとやってきた。

「あの、お待たせしました」
「花ちゃん! うん、すごく可愛いよ。よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」

花を見るや満面の笑みで称賛する孟徳は、己の目論見がかなったことに喜ぶ。
普段からあまり着飾ろうとしない花は、孟徳からの贈り物も固辞することが多いため、ホワイトデーは気兼ねなく贈り物を出来る絶好の機会だったのだ。

「お茶を用意させたから一緒に飲もう。お茶菓子もあるよ。これなんか花ちゃん好きじゃない?」
「あ、可愛い。ウサギの形をしてるんですね」

着飾った花が嬉しそうに自分の前にいる。それが何よりの贈り物だと、孟徳は幸せそうに微笑んだ。
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