とどかない/はなさない

仲花4

いつだって自分ばかりが焦っていて、自分ばかり想っているように思えた。

花は誰にでも優しく、まっすぐに向き合う。
そんな彼女に惹かれているのは自分だけではないのだろうと、いつの間にか親しくなっていた妹や大小姉妹を見てもわかった。

自分の傍にいて欲しくて手を伸ばして、けれどもうまくいかなくて、自分の想いだけが空回る。
何か事情があるのだとわかっても、玄徳の傍らに花嫁姿の花を見るのは辛く、遠く離れた状況にこのまま会えなくなってしまうのではないか……そんな想いから、危険を承知で敵地に忍び込みまでした。

「仲謀? どうかした?」

ふとかけられた声に我に返ると、きょとんとこちらを見返す顔は無垢で、仲謀の葛藤など何も知らないその表情に無性に悔しくなった。
それでも今、花は確かに自分の隣りにいた。
手を伸ばせば触れられる。
抱きしめれば突き放されることはなく、想いを伝えれば顔を赤らめながらも応えてくれる。

「……っくそ。なんで俺ばっか……」
「?」
「ほんと、お前ムカつく」
「何、それ。いきなり」

仲謀の胸の内など知りえない花は、突然悪態を突かれ頬を膨らませるが、怒りたいのはこっちの方だ。
自分だけがこんなに花を求めてる。
自分だけがこんなにも花を好きだ。

「さんざん我慢してきたんだ。もういいだろ? 俺の好きにさせてもらうぞ」

そう言って頬を両手で包めば、その先何が起こるのか分かったのだろう、花の顔が赤らむ。
それでもふり払われないのは、彼女の想いが自分に向いている証。

とどいていないと思っていた想いは確かにとどいて、花は自分の世界に帰る道を選ばずに、自分の傍にいることを選んだ。
まだまだ想いの強さはかみ合っていないように思えて悔しいが、それでも確かに花の想いは自分に向いている。
だからこそ傍にいることを選び、こうして触れることも許すのだから。

どくんどくんとうるさいぐらいに跳ね上がった鼓動。
それが伝わってしまわないか気になるが、それよりなにより花に触れたい。
その想いで顔を傾けると、感じた香りは女性が身を飾る化粧ではなく、香でもない、花だけが持つ彼女の香り。
くらり、と眩暈のような錯覚を覚えながら唇を重ねれば、そのぬくもりにさらに鼓動が跳ね上がって。
もう二度と、このぬくもりを手放したくない。
はなさない。
そう強く心に刻んで、必死にその先の情念を抑え込んだ。
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