「公瑾さん! 目が覚めたんですね」
「……花……殿? ……どうして……」
「前に受けた矢傷が化膿して倒れたこと、覚えてますか? ずっと熱が引かずに寝たままだったんですよ」
「そう……ですか」
「お水飲みますか? 熱が出てたから喉乾いてますよね」
「いえ……どうしてあなたがここにいるのですか?」
「仲謀にお願いして看病させてもらってたんです」
「看病? あなたが私を?」
「はい」
驚いている公瑾に頷くと、水差しから水を注いで手渡した。
「……どうして私の看病など」
「ずっと目を覚まさないから心配だったんです」
「……………」
受け取った水と花の顔とを交互に見やってから、公瑾はおずおずと口をつけた。
「あ、目を覚ましたこと、お医者さんに伝えてきますね」
「待ってください」
「公瑾さん?」
「どうしてあなたは私の看病をしていたのですか」
「それは、さっきも話した通り、心配だったから……」
「仲謀様の元を離れるように勧めた私を、ですか」
「…………」
『あなたは仲謀様の寵愛を受けながら、仲謀様以外の何の心配をなさっているのですか?
仲謀様のことよりも玄徳殿たちのことを考えている時点で、あなたには仲謀様のそばにいる資格がない。
仲謀様のことを一番に考えられないなら、もうあの方には近寄らないでいただきたいですね』
以前、玄徳たちのことを心配した時に公瑾に言われた言葉。
あの時は自分には仲謀のそばにいる資格がないかもと不安になったけれど。
「仲謀のお母さんにも同じようなことを言われたんです」
「仲謀様の……お母上にですか?」
「はい」
『あなたに仲謀のために死ぬ覚悟はありますか』
「私は仲謀の事が好きだから。だから一緒にいたいと、そう思ってました」
「……………」
「仲謀の抱えているものをよくわからずに、ただ一緒にいたいと思いました」
「ようやく仲謀様のそばを離れる気になったのですか?」
公瑾の問いに首を振ると、花はふわりと微笑んだ。
「私、仲謀の事が好きです。仲謀が悲しんだり苦しんだりして欲しくない。一人じゃなく一緒に考えたいんです」
「……………」
「私はこれからもずっと仲謀と一緒にいたいんです」
「……私が許さなくともあなたは仲謀様のそばを離れる気はないのでしょう? ならば私の了承など不要でしょう」
ふう、と重く息を吐き出すと目を閉じた。
「……仲謀様のお母上が認められたのならば、私がこれ以上口出しなどできようもありません」
「公瑾さんは、やっぱり私が仲謀のそばにいることに反対ですか?」
「ええ」
「――じゃあ、認めてもらえるように頑張ります」
思いがけない反応に目を開ければ、そこには笑顔の花。
「公瑾さんは仲謀にとって大切な人だから。だから、私も認めてもらえるように頑張ります」
「……………」
何も知らない幼子のようで、垣間見せるこうした芯の強さが仲謀を惹きつけたのだろう、と公瑾は眩しげに目を細めた。
「……少し眠りたいので出ていってもらえますか」
「あ、ごめんなさい。目を覚ましたこと、お医者様に伝えておきますね」
立ち上がり部屋の入り口へと歩いていく花に、小さな呟き。
「……ありがとうございます」
「え?」
振り返って、けれど目を閉じている公瑾に、花はそのまま部屋を後にした。
「公瑾の様子はどうだ?」
「仲謀。さっき目を覚ましたよ」
「本当か? よし、顔を見てくる」
「あ、眠りたいって言ってたから後にした方がいいかも」
「そうなのか? なら後にするか」
「私、お医者さんに目を覚ましたこと伝えてくるね」
「……ちょっと待て!」
「え?」
振り返った花を引き寄せる力。
抱き寄せられたことに気がついて、花の顔が赤くなった。
「……今回は特別だからな。こんなふうに他の男の世話なんて」
「?」
「お前は、無防備すぎんだよ! ったく……」
苛立つ理由がわからず瞳を瞬くと、顔をしかめていた仲謀が噛みつくように唇を奪う。
「…………!」
「お前に触れていいやつは俺だけなんだからな!」
「……そんなの、仲謀以外にこんなことさせないよ」
顔を赤らめ俯く花に、同じく赤く染まった顔を隠すように腕の中へ抱き寄せた。
* *
「仲謀様。今度からいちゃつく時はご自分のお部屋でお願いします」
「な……っ! まさかお前、覗いてたのかっ!?」
「そんなわけないでしょう。部屋の前でいちゃつけば嫌でも聞こえてきますよ」
「ば……っ! 俺は、いちゃついてなんか……!」
顔を赤らめ慌てる仲謀に、態度が肯定してますよと内心で呟き、公瑾はため息をついた。