いつか遠くない未来で

仲花31

「……ん?」

わずかに感じた違和感に辺りを見渡すが、見慣れた景色は相違ない。

「なんだろう?」

何かがおかしいと、そう感じたのは一瞬で。
けれどもおかしなところは見つけられなくて、何がおかしいのかわからない。

「おい、花」
「あ、仲謀」

呼びかけに振り返れば、そこにいるのは今や夫となった仲謀。
何だろうと近寄れば、あいつが探してたぞと告げられる。

「あいつ?」
「なんだ? 寝惚けてるのか?」
「立ったまま寝るわけないでしょ」

当然だと腹を立てかけて、ふとわずかな違いに仲謀を凝視する。
金の髪に綺麗な空色の瞳。
孫家の象徴のふさふさは相変わらずで、呉ネックレスは……今は自分の胸元だ。

「何だよ、構ってほしいのかよ」

揶揄うように浮かんだ笑みは……あれ? 違う?

「仲謀ってそんな笑い方したっけ?」
「はあ? おい、本当に寝惚けてるのかよ。まさか具合が悪いわけじゃねえよな?」

見る見る真剣なものに変わる表情を見つめていると、どすんと後ろからどつかれて。
反射的に背中越しに見ると、金色の髪が目に入った。

「仲謀?」

彼と同じ髪色。けれども彼は目の前にいる。
ではこの、腰に抱きつく少年はいったい?

「○○(だれ?)」

問おうとした声と重なった声は、自分の口から出たもので、それに応じるように顔を上げた少年が花を見る。

(わ、可愛い!)

くりくりとした瞳に、勝気な眉。
金色の髪は陽射しを受けてキラキラと輝いていて、それは目の前の仲謀と同じ色。

「母上! 探したんですよ」
「ごめんなさい、○○(母上って?)」

またしても重なる声は、花が考えたこととは違う言葉を紡ぎ出す。
それでおかしいのは自分なのだと、ようやく気がついた。

(そうだ。急にこの場面で、何故ここにいるのかわからなかったから――)

だから違和感を覚えたのだと理解すると、歩み寄った仲謀が少年の頭をくしゃりと撫でる。

「見つかってよかったな」
「はい、ありがとうございます、父上」
「父上!?」

思わず声をあげれば、きょとんと二人に見つめられて。

「父上? 母上がおかしいです」
「だよな。俺もそう思っていたとこだ」

意見を重ね合わせて頷き合う姿に、いやおかしいのはこの状況だから!と言いかけて、唐突に悟った。

「あ、そうか」
「花?」
「母上?」

(夢、なんだ)

突然の状況も、見知らぬ存在も、すべてはここが夢の世界のことだから。
あまりにも現実味があり過ぎて夢だと自覚できなかったが、夢だとわかればおかしいのは自分なのだろう。
目の前にいるのは夫で、少年はきっと――。

(最初の子は男の子なのかな?)

この世界で生まれる前に性別を知る技術など当然ないから、今お腹の中にいる子がどちらかなんてわかるはずもない。
それでも、もしもこの夢が正夢ならばきっと。

「あなたに会えるんだね」

屈みこんで目の高さを合わせると、にこりと微笑む姿が愛しくてぎゅっと抱き寄せる。

「もう少しで会えるよ。私も頑張るから、もう少しだけお腹で待っててね?」

呟くと同時に辺りが白んでいって、目を開けると見慣れた天井にやっぱりそうかと納得する。
隣を見ると、先程の少年と同じ金の髪が目に入って、手を伸ばして触れると重たげに瞼が開いていく。

「……ん……もう朝か?」
「うん。おはよう、仲謀。あのね、夢を見たんだ」
「夢?」
「うん」

まだ眠そうながらも耳を傾ける仲謀に、お腹を撫でながら囁く。
そう、あれはきっと遠くない未来の自分たちなのだろうから――。

20190202恋戦記ワンドロ作品【夢】
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