八周年

仲花26

「……ふふ」
「なんだよ、急に」
「ごめん、思い出し笑い」
こぼれた笑いに謝ると、隣の仲謀を見上げて再び微笑む。

「思い出し笑い?」
「うん。二十年もかからなかったなって」
「どういうことだよ?」

花の話が分からずに問いを重ねる仲謀に、花は以前仲謀の母と交わした会話を思い出しながら話して聞かせた。

「そういえば前に言ってたな」
「うん。呉夫人は仲謀のお父さんのようになるのは二十年かかると思っていたみたいだけど、そんなことなかったなって」

二十年かからなかった――とは、その時のことを言っていたのだとわかると、仲謀が苦笑する。

「母上には情けない姿を見せたからな。心配されるのも仕方なかったか」

「仲謀だけじゃないよ。私も仲謀のことをわからなかったから」

だからこそ初夜ひとつとっても、あれほどの騒動になってしまったのだと思うと二人苦笑するしかない。

「でも、今はもうちゃんと夫婦でしょ?」
「当たり前だ。今はあいつらもいるんだからな」

仲謀の視線の先には、二人の子ども。
明るい金の髪を陽射しに輝かせて、幼い妹の手を引く男の子と、青い瞳を兄に向けて微笑む黒髪の少女。
彼らは仲謀と花の間に生まれた愛する子どもだった。

「あの子たちを見てると本当に仲謀と夫婦になったんだなって実感するよね」

仲謀の髪の金色と花の瞳の色を持つ長男と、花の髪の黒色と仲謀の瞳の青色を持つ長女。
確かに血を分け合った証である面差しが嬉しくて幸せで、傍らの仲謀に寄りかかる。

結婚したばかりの頃は、こんな些細な接触にさえ顔を赤らめていた仲謀も、今は柔らかく微笑んで肩を抱き寄せてくれる。
その頼もしさは夢で見た二十年後の彼と共通するもので、つい笑みがこぼれてしまう。

「まだ笑ってるのかよ」
「幸せだなって。大好きだよ、仲謀」

恋の先にある感情で結ばれた今なら「愛している」の方が適切かもしれないが、やはり花はどうしようもなく仲謀が好きだから。
そんな思いを正しく理解してくれているのだろう、仲謀の顔が近寄ってきた瞬間、「父上ー母上ー」と自分たちを呼ぶ幼い声にぱちりと瞳を瞬き笑う。

「……またかよ」
「ふふ、続きは夜だね」
「お前も言うようになったよな」
「だって『夫婦』だもん」

仲謀だってこんなことを言えば顔を赤らめていたのにと笑いあうと、我が子を迎え入れるべく立ち上がる。

結婚して、色々なことを乗り越えて八年――二人で歩んできた確かな絆が今ここにはある。
大好きな仲謀。
愛しい我が子。
大切な呉。
すべての愛しいものを胸に抱いて微笑むと、花は仲謀とこれらを守り生きていく思いを新たにした。

2018/03/20
Index Menu ←Back Next→